ありのままで

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ありのままで

蘇我さんってね、 とても品のいいご贔屓のお客様で 例の 『都市伝説』を 教えてくれた人なの 恋人に オーナメントを用意してもらって、 自分一人でもみの木を見つけたら 願いが叶うって、 あの話。 だから… 望さんにオーナメントを 頼んだの。 オーナメントは 手に入らなかったけど、 喧嘩してしまって でも、 手紙を書いて もみの木に置いたら 望さんに気持ちが届くかな と思って、 昨夜書いて、 今朝早くに 置いてきたんだけど… よく考えたら… 望さんに届くより 誰かに拾われて読まれたら どうするのよって、 帰る途中で気がついて… あわてて公園に戻って… 回収してきたというわけ…」 「…だから、 ポケットにあったんだ。」 「そういうこと。」 「…で、どうするつもりだったの? 僕に渡そうとしてた?」 「…わからない。 その先まで考えてなかった。 ただ…早く 仕事に行かなくっちゃって。 だって、 今日休みじゃないから。 お店。 必死で手紙を書いて、 自分の気持ちを はっきり 確かめることができたから、 その時は、 それでよかったの。 自分のことで精一杯で、 また、望さんの気持ちまで 考えてなかった。」 「もう…謝るなよ。 ちゃんと話そう。 今日はずっと一緒にいるから。 さっき社長から メールが来たんだ。 蓮と仲直りしろって。 業務命令だってさ。 ふ…もし蓮と別れた なんて言ったら クビになるのかなぁ、僕。」 「まさか… そんなことで…ないでしょ。 …それより… なんで社長さんが知ってるの? 喧嘩したこと。 話したの?… それで、朝帰り?」 店に着いた。 蓮に軽く睨まれた。 やだ、もう…。 平木社長もお客様なのに、 恥ずかしい。 罰として いっぱい働いてもらいますからね。 朝ごはんもお預けね。 ぶつぶつ… さっさと車から降りて 店の中へ入る蓮。 追いかけるように 望も車を降りる。 「店長殿。 オーナメントは こちらでよろしいでしょうか?」 「いいんじゃない。」 厨房から気の無い返事。 蓮は早速仕込みにかかって こちらを見ようともしない。 「冷たいな〜。 これを手に入れるの、 結構苦労したんだけど… チラッとでいいから見てよ。 綺麗だよ。」 「ゴメン、分かってる。 でも、 もう店を開けないと お客様来ちゃうのよ。」 そう言いながらも 厨房から出てきた。
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