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最後の愛
「なんか、最近調子いいじゃん」
休憩中、かなが話しかけてきた。
「そうなのよ。最近いい感じなの」
「一週間前、課長にひどい振られ方したってのに、立ち直りの早いこと。新しい彼のおかげかしら?」
「新しい彼?」
彼女は私の左手で光を放っているリングを指差す。
「それ。新しい彼と順調なんじゃないの?」
「違うわ。私は今フリーよ」
「え?」
彼女は意味がわからないといった表情をする。
私も、最初は意味が分からなかった。振られたばっかで、愛どころか恋すらしていないはずの自分のリングが光り輝いている意味が。
相手は誰だ?私は今誰の事を想っている?
何度も自問自答を繰り返し、私はある結論に至った。
「見つけたの。最後の、本当の愛を。」
「どういうこと?」
「課長に振られた日、私は自分を大切にするって、そう決めたの。そしたら次の日リングが光ってた。多分だけどね、私、最後の愛を使って自分を愛してるの」
「え…え!?そんなこと、有り得るの!?」
「私も最初は信じられなかったけど、 考えれば考えるほどそれしかないなって。現に私、今まで他人のことばっか考えて自分のこと大切にできてなかった。でも、リングが光ってから、ちゃんと自分のことも考えるようになった。自分に自信が持てるようになった。きっとこれは、私が私を愛した証拠よ」
「でも、愛は二人じゃないと成立しないはずじゃ…」
「自己愛は別よ。自分のことだから、自分が自分を愛して、それを自分が認めれば成立するわ」
そっか、と彼女は頷く。
「なんか、最後の愛を自分に使っちゃうのはもったいない気がしちゃうわね。ゆうこモテるのに…」
もったいない、か。きっと私のことを思っての言葉だろう。
彼女は、自分が三回分の愛を全て使い切ってしまっているためか、私には幸せになって欲しい、本当の愛を見つけて欲しいとよく言っていた。
「もったいなくなんかないわ。かな、私は今とても幸せよ。それに、私ね、強いて言うなら自分にモテたいわ」
私は冗談交じりに笑ってみせた。
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