消費

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 三回。    人には、人を愛するためのエネルギーに限界がある。  愛は恋とは違う。相手を思いやり、相手を支え、どんな状況でも相手を信じなければならない。  それには、相当な覚悟とエネルギーが必要となるだろう。  そのエネルギーの限界が、三回。    つまり、人は一生の内に、三回しか人を愛する事が出来ないのだ。    お互いがお互いを愛し合ってさえいれば、そのエネルギーは半永久的に続く。  しかし、片方、又は双方の愛が揺らげば揺らぐほどエネルギーは消費され、たちまち消滅する。  なにを基準に消滅とするか。  それは、この左手についているリングが教えてくれる。  このリングは、出生届を提出すると政府から送られてくる。  身に付けている人間の精神状態によって色が変わる代物らしく、通常は銀色。  誰かを愛すると金色に変わる。そしてその愛が不確かなものになればリングは段々と錆びていく。  リングが完全に錆び、黒ずめばその愛が消滅したことを示している。    しばらくすればまた銀色に戻るが、三回目の愛が終わるとそのリングは二度と銀色には戻らない。    一回目の愛を死ぬまで貫く人もいれば、三回分の愛を全て使い切る人もいる。  一度も人を愛さずに一生を終える人もいる。  それは人それぞれだ。  そして私、中嶋ゆうこは既に二回分の愛を使っている。  一度目は高校二年生の時。入学した時からずっと憧れていた先輩に告白された。    最初はお互いただの恋だったが、時間が経つにつれ、恋は愛に変わっていく。  付き合って半年が経った時には、私と彼のリングは金色に輝いていた。  しかし、彼が大学受験で忙しくなり二人の時間が取れなくなった頃、私達のリングは錆び始めていた。  物理的に距離ができると精神的にも距離ができるらしい。    私の初めての愛はこんなにもあっさりと終わりを迎えた。  二回目は大学四年生の時。  大学に入ってすぐに、同じサークルの同級生と付き合うことになった。  この時も、半年が経つ頃にはリングは金色に輝いていた。  二年にあがっても、三年にあがってもリングの輝きは途絶えなかった。  異変を感じたのは四年にあがってしばらく経った頃。  朝起きると、昨日まで光り輝いていたはずのリングから輝きが失われていた。  相手の浮気だった。  こうして、私の二度目の愛は幕を閉じた。
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