1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

「あと一回か…」  休憩中、銀色のリングを見つめ呟く。    二回目の愛が終わってから、私はずっと悩んでいた。 「いいじゃない、まだあと一回あるんだから。私なんてもうないのよ?あるだけマシよ」  そう笑い飛ばす彼女は高橋かな。  私が勤めている会社の同僚だ。 「私なんか、最後の愛にかけていたのに、結局振られたのよ!?君と結婚は考えられないって!自分より給料の高い彼女は嫌なんだって!ひどくない!?」 「その話、耳にタコがでこる程聞いたわ。でも結果オーライじゃない。かなは根っからの仕事人間だし、彼と付き合っていた時より今の方が輝いてるわよ」 「リングは黒ずんでるけどね」  彼女は左手を差し出し、リングを見せる。  彼女のリングはひどく錆びており、黒ずんでいた。 「ずっと気になってた事があるんだけどさ、三回分の愛を使い切るとどうなるの?」  ずっと疑問だった。 「んー、なんていうか、人を愛せなくなっちゃうの。人を好きになることはあるんだけど、恋どまり」 「でもさ、かなが好きになった人もかなのことを好きだったら、それは愛に発展しないの?」 「しないというか、できないのよ。相手が自分に好意をもってるって分かっても、嬉しいとか、付き合いたいとか思えないの。多分、三回失敗してる分、誰かと共に生きるっていうのに疲れちゃってるのね」 「ひとりの方が気が楽的な?」 「そんな感じ」  なるほどなぁ。世の中には最初から誰も愛さずにひとりでいる選択をする人もいるし、使い切ったからといって特別なにかを失うわけでもないのかもなぁ。  そっかぁと相槌を打ちながら考える。 「愛するも愛さないも、貴方の自由よ」 「え?」  彼女は、好きな人がいるんじゃないの?と続ける。 「引きずってるんでしょ、前回のこと。三年以上付き合ってきた相手に浮気されたら、誰だって次に進むのは怖い。焦る必要はないわ。最後の愛なんだから、大事にしなさい」  彼女はそれだけ言うと仕事に戻ってしまった。  最後、だもんね。やらずに後悔するよりやって後悔した方がマシか…。  仕事が終わり、私はロビーである人を待っていた。 「すまない、待たせたな」 「お疲れ様です、課長。こちらこそ急にすみません」 「構わん。で、話ってなんだ?」 「あ、えと、その事なんですけど、とりあえずご飯でも行きませんか?」 「おお、いいな。ちょうど腹が減っていたところだ」  私達は会社をあとにした。 「ここ、俺の行きつけなんだ」  会社から少し離れた小洒落た居酒屋に入り、カウンターに座る。 「お洒落なお店ですね」 「こんなに小洒落た店なのにメニューはそこら辺にある居酒屋となんにも変わらないんだ。面白いだろう?」  彼は無邪気に笑う。 「課長って、仕事中はずっとしかめっ面で怖いのに、笑うと幼くなりますよね」  そういうと今度は照れ臭そうに笑う。 「そんなところが好きなんです」  気付いた時には、そう口にしていた。 「あ、いや、これは、えっと…」 「そのは、俺の笑顔に対してか?それとも、俺自身に対してか?」 「え…」  予想外の返しに戸惑う。 「か、課長自身…に、対してです」 「そうか。実はな、俺も中嶋の事が気になっていたんだ。中嶋さえよければ俺と付き合ってくれないか?」 「も、もちろん…!」  彼はまた、無邪気に笑ってみせた。  急展開過ぎて頭が追い付かないが、夢ではないことは確かだ。  嬉しかった。  きっとこれが最後の愛になるだろう。    私の最後の愛。大事にしよう─。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!