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始まり
「ねぇ、ゆうこって課長と付き合ってるんだよね!?」
「しーっ!声が大きい。社内恋愛禁止なんだから、バレたらどうするの」
かなは、ごめんごめん、と両手を合わせて謝る素振りをする。
社内恋愛禁止ということもあり、かなには言うか迷ったけど、一応伝えておいたのだ。
「ゆうこ、これみて」
かながスマホを差し出す。
そこには、知らない女と楽しそうにホテルに入っていく課長が写っていた。
「言おうか迷ったんだけど、一応伝えておく」
「ありがとう、かな」
前々から、もしかしたらって思っていた。
恋は一人でも成立するが、愛は二人じゃないと成立しない。
最初から私だけが本気だったんじゃないかって。遊ばれていただけなんじゃないかって。
現に、私の左腕にあるリングは今だ銀色のままだった─。
「課長、お話があります」
「どうしたんだ、そんな改まって」
私達はあの小洒落た居酒屋に来ていた。
私の新鮮な表情に彼は何かを察したのだろう。
いつもの無邪気な笑顔はなかった。
「これ、課長ですよね」
かなから貰った写真を課長に見せる。
「間違いなく俺だね。よく撮れてる」
彼は驚く程落ち着いていた。
「この女の人が誰かとか、そんなことはどうでもいいんです。今までのこと、全部嘘だったんですか?私のこと好きだって、愛してるって、あの言葉は全部嘘だったんですか」
「嘘?俺は最初から君の身体が気になってて、君の身体が好きで、君の身体を愛していた。一度も君自身を好きだなんて言ってないよ。君が勝手に勘違いしただけだ」
悔しくて悔しくてたまらなかった。視界が涙で滲んでいく。
「大抵の子はリングの色が変わらないとかで、愛想を尽かして去っていく。君は、俺のリングの色なんか関係ないって言葉を信じてそばにいてくれたね。こんな純粋な子を失うのは惜しいなぁ。もっと─」
私は店を飛び出した。
課長の言葉なんか、聞きたくなかった。
泣きたくないのに、涙が溢れて止まらない。
家に帰り、ベッドに倒れ込んだ。
静寂に包まれた空間で、先程の課長の言葉が頭を巡る。
もう、なにも信じられない。
きっとこの先誰かを好きになる事も、誰かを愛することもないだろう。
これからは、もっと自分を大切に生きていこう。
ベッドに横たわり、銀色のリングを見つめながら、心にそう決めた。
色々あって疲れていたのか、その日はそのまま寝てしまった。
「やばい、寝ちゃった。もう朝じゃん!シャワーだけでも入らないとって…え!?」
ゆうこは左手に着いたリングから目が離せなかった。
昨日まで銀色だったはずのリングは、金色に光り輝いていた。
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