第一章 平凡の終焉

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 結局、留置所に二泊して午後やっと釈放された。釈放に当たり、警官から念を押された。  「あなたは初犯で相手方との示談も成立しているようなので、今回は微罪逮捕ということでこれで釈放しますが、次に何かあれば実刑も覚悟しておいて下さいね」  微罪逮捕? 示談? 実刑?  今までの人生でかかわりなかった単語たちと出会って、釈放間際だというのに僕はまた混乱していた。  質問すると警官が丁寧に説明してくれた。  微罪逮捕とは文字通り、逮捕はしたが微罪なので釈放すること。この場合、前科はつかないが前歴はつくので、また逮捕されることがあれば罪は重くなる。  示談は簡単に言えばトラブルをお金で解決すること。示談が成立したということは、加害者扱いされてる僕の方が被害者とされている夢香にお金を支払ったということ。僕は留置されていたから実際払ったのは僕の両親だろう。いくら払ったか知らないけれど。  実刑とは、執行猶予が付かずに刑務所に実際に収容される懲役刑、禁固刑のこと。そうなれば僕は教員免許を剥奪され、もちろん懲戒免職となり路頭に迷うことになる。  二度と妻へのストーカー行為をしないようにと警官は口が酸っぱくなるほど僕に繰り返したが、家から出ていった妻子を迎えに行くことがなぜつきまといになるのか、僕にはまったく理解できなかった。  別居している両親が身柄引受人として警察署に呼ばれていて、僕の身柄を引き渡された。  スマホの電源を入れると、留守電に義父のメッセージが残されていた。  「おまえがうちに置いてった車は夢香のものにするから。慰謝料の一部としてな」  慰謝料って何の慰謝料だろう? 慰謝料が心を傷つけられたことに対する代償だとするならば、僕の方がよほど傷ついているはずだ。突然何の前触れもなく妻子に出て行かれて、義実家に迎えに行けば警察に逮捕され留置所に入れられた。
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