第二十章 地獄でもう一度殺すつもりだ

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 まず杉原弁護士に依頼して松永賢人と示談した。松永は脅迫罪に問われ、地裁で執行猶予付きの懲役刑の判決を受けた。控訴せずそのまま確定。刑務所には行かずに済んだが前科持ちの身分になった。  示談の内容は夢香と不倫して婚姻関係を破綻させた慰謝料として三百万、娘たちを脅迫したことに対する慰謝料として二百万。計五百万円。松永は退職金なしで会社をクビになったばかり。前妻の里英からも慰謝料を請求されていて一括では払えないとゴネられたから、分割で勘弁してやった。  次に夢香。この数ヶ月のあいだに夢香の妊娠が発覚した。当然三年間レスられていた僕の子どもではない。松永の子らしいが夢香は確かめもせず墮胎した。夢香はちょっとした事故くらいにしか思ってなかったが、僕は気持ち悪くなり夢香を生理的に受けつけられなくなった。  離婚と慰謝料と養育費を要求した。慰謝料は松永と同額の三百万。養育費は毎月十万円。夢香はまだ僕との再構築を夢見ていたから、見ていて笑えるくらい取り乱していた。  「再構築してくれると言ったじゃない!」  「人の気持ちは変わるんだよ。あなたが僕を裏切って不倫したようにね」  「あなたが嘘をつくような人だと思わなかった」  「僕はもともと嘘のつける人間ではなかった。あなたが僕をそう変えたんだよ」  「ひどい! 私を裏切るの?」  不倫しといて何言ってるの? ともう余計なことは言わなかった。  「慰謝料、分割でもいいけど、払い終わるまで面会はなしね。もちろん養育費の支払いが滞った場合もね」  と告げたら泣き崩れた。  払い終わってももう会わせないけどね!  僕の企みを見抜く余裕もなく、夢香は離婚届と示談書にサインした。慰謝料は三年間の分割払い。夢香は里英にも慰謝料を分割で支払い中。最初の数ヶ月は退職金から取り崩してなんとか払うだろうが、おそらく一年もしないうちに支払いは滞るだろう。そうしたらさっさと給料を差し押さえるだけだ。  「早く就職先見つけてね」  そう声をかけたきり、夢香とは会ってない。慰謝料と養育費は今のところ毎月しっかり支払われている。    子どもの連れ去りは国際問題にもなっている。外国でその国の男性と結婚して子どもを出産した日本人女性が、夫に無断で子どもを日本に連れ帰るからだ。  岡室(おかむろ)春子(はるこ)とかいう、離婚ビジネス弁護士の親玉みたいな女性弁護士がテレビに出て吠えていた。  「子どもに会いたいのに会えない? 日本に来て面会交流調停すれば子どもに会える。それをしないのだから、悪いのは男性側です!」  面会できるのだからいいだろうって? 外国人の夫は面会したいのではない。親として子を養育したいのだ。そもそも無断で連れ去ること自体が犯罪ではないかと言われてるのだ。それに面会交流調停で面会が認められたところで、子と会えない別居親は何万人といる。裁判所に認められた面会日に訪問しただけなのに、毎回警察を呼ぶ頭のおかしい同居親だっている。会わせないのに養育費は払え? 払われた養育費も悪徳弁護士にピンハネされる。これがわが国の単独親権制度の実態。  でも娘たちが帰ってきて分かったが、この制度は別居親には地獄でも同居親には天国だ。岡室や鷲本といった、子の連れ去りを推奨する悪徳弁護士たちが単独親権制度維持に血眼になることだけ見ても、単独親権制度は間違いで原則共同親権が正解だと分かる。  間違いだと分かっていても、今の僕は単独親権維持に賛成だ。共同親権なら、顔も見たくない夢香にも子の養育に参加させなければならない。そんなのはまっぴらごめんだ!
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