僕が殺し屋になった日

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後日、とある施設でアレクは電話に出ていた。 「依頼は本当はなかった?」 『あぁ。 資料を確認しているけどオードリー家を殺せという依頼は一つもないんだよ』 今アレクは仲間だった人と言葉を交わしていた。 その言われた言葉が理解できず首を捻る。 『ただケイシーっていう奴からアレクの殺害予告が届いているんだよな。 物騒だ。 まぁボスはアレクを不安にさせないよう黙っていたのかもな』 ―――・・・そうか。 ―――ケイシーは殺害予告を出すことでこっちの動きをコントロールしようと考えたんだ。 ―――ケイシーは予め大量の罠を仕掛けていてボスはそれを完全にかわすことができなかった。 ―――だからボスはケイシーに負けたんだ。 ―――それにケイシーは殺害予告を送っていることから俺の居場所を既に特定していた。 ―――どうしてこんな危険な任務を俺に任せたのか疑問だったけど、俺をこの場所から遠くへと逃がすためだったんだ。 「・・・そうだな。 ボスは最後まで俺を守ってくれていたのかもしれない。 ボスの容態はどう?」 『まだ治療中だけど快復に向かっているみたいだぜ』 「そっか。 ・・・よかった」 『しっかし、自分の目を切り裂くなんてな。 それしか思い付かなかったといっても流石に苦肉の策が過ぎるんじゃないか?』 「あの場を切り抜ける方法なら他にもあったと思う。 だけどそうすると結局この先に続く恨みの連鎖に決着がつかないと思ったんだ」 『だとしても普通簡単には決断できないって』 「結局突発的に行動してしまう性格は生来のものでこの先一生治らないのかもしれない」 『暗殺稼業を辞めるんだから矯正していかないとな』 アレクは暗殺稼業を引退することにした。 光を失うことにしたのはケイシーとの禍根を消し去るためだ。 暗殺稼業を続けているとなれば、いずれしこりが膨らみ衝突することになるのは目に見えていた。 「お兄ちゃーん!」 「あ、悪い。 そろそろ切る」 『了解。 そっちでも頑張れよ』 「ありがとう」 これまでの仕事で蓄えた金が大量にあるが、ずっと何もしないというわけにはいかない。 幸いブラッドは光を失ったこととケイシーとのことで殺し屋を辞めることに代償を求めなかった。 ―――元々殺し屋に誘ったのは俺に金と自身を守る力を付けさせたかったという親心から。 ―――それが備われば殺し屋なんてさせたくなかったんだよな。 「お兄ちゃん! パン焼いてきたよ!」 「たくさんパンを抱えているのか? 出来立てのいい匂いがするな」 「うん! みんなの分もあるから!」 ベティはあれからの縁で時折アレクのもとへやってきてくれる。 ブラッドがアレクを殺し屋から引退させることを条件にベティを寄こすことをケイシーと決めたのだ。 ベティがそれを拒むことはなかった。 ―――ベティはあの日、俺と二人きりになった時に髪飾りに仕込んだナイフを使って俺を殺すよう言われていたらしい。 ―――ベティだけ何故一人で家にいたのかずっと不思議だったけど、俺たちがベティを連れ出すことが分かっていたっていうことだよな。 ―――何もかもケイシーの掌で踊っているばかりだった。 ―――一つケイシーに誤算があったとすれば、ベティが俺を殺さなかったこと・・・。 アレクはベティがまさか自分を殺そうとしているだなんて思わず隙を晒してしまっていた。 驚くべきことにベティはケイシーの教育のためか殺しを体験したことがあるらしい。 ―――殺し屋なんてたとえ必要な存在だとしても、いない方がいい。 ―――恨みに恨みをぶつける負の連鎖が行きつく先は地獄。 ―――父さんを否定するつもりはないけど、俺はもう・・・。 ベティはアレクを殺す予定だったが見極めようと思っていたらしい。 そのような中でアレクが兄であるということを知った。 アレクを殺させようとしたケイシーに不信感を抱いた。 ―――・・・まぁいいか。 ―――次第にベティはケイシーよりも俺と一緒にいる時間の方が多くなったから。 「みんなー! パンを持ってきたよー!」 「「「わーい!!」」」 子供の元気な声が近付いてきた。 「アレクお兄ちゃん! このパン食べてもいいの!?」 「あぁ、いいよ。 喧嘩にならないようみんなで分けて食べるんだぞ」 「はーい!!」 アレクは孤児の面倒を見る仕事に就いた。 自分は偽りの愛情だと思い両親を殺しかけてしまったが、後から母親だけは本当の親だと知った。 誰のせいとは言わないが、子供はやはり誰かが正しい道へと導く必要がある。 ブラッドも歪んではいたが同じようにしたのだ。 今度はきちんと普通の人間として導いてやろう。 それがあの日真実を知って思い立ったことだ。 「アレクお兄ちゃん、大分表情が和らいだね。 どう? 光を失った生活はやっぱり辛い?」 ベティの言葉にアレクは返した。 「別に辛くない。 この選択が悪かったとは一度も思っていないから」 「そっか!」 元気なベティの返事を聞けば本当にこの生活も悪くないと思える。 ―――今の俺にどこまでできるのかは分からない。 ―――だけど自分の人生、納得のいくまでやってみようと思うんだ。                             -END-
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