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今世で学ぶ
私がこの世に生まれついて、改めて魔王という存在について考えてみる。
この時代は特に創作物で溢れており、想像力豊かにさまざまな悪と善について語られている。
小学校に通い始めれば、図書館の美術書や、物語に登場する魔王は、魔物を操り人間の世界に恐怖をもたらす姿が描かれていた。
まさに前世の私の姿の様だった。
たまたま本屋で見かけた雑誌を手に取る。
「ほほぉ、魔王が、こんな可憐な姿を?」
ぱらりとめくったページには実に可憐で儚げな魔王のイラストが描かれている。
その隣では逞しい肉体で鬼の様な顔をした姿もあり、人間の想像力には感心するものがあった。
「そうか......人間になってみるとやはり魔王とは居ない方が安心するものだな」
ああも血眼になって執拗に魔王という存在を嫌っていた人間の気持ちがようやく理解できた。
うん。魔王は怖い。今の自分は無力で何の力も持たず、寿命も短い。そうなってみると、永遠の命と若さを持ち、多くの魔力を持った人間ではない者はそりゃ怖い。居ない方がずっといい。
この世界では、かつて魔王であった頃に小間使いとして使っていた鬼でさえ、年に一回退治されるべき対象であり、不幸を運ぶものとして頻繁に登場している。
鬼でさえ、怖い存在なのだ。
であれば。
魔王の時代に注意をしに行けと放った鬼達は人間の前に姿を現したはずだ。
きっとそれを見た人間はさぞかし恐ろしい思いをしたことだろう。
この世界では、傷は一瞬では治らない。
魔王の頃は頭を飛ばされても、腕を吹っ飛ばされても、串刺しになったとしても、それが伝説の剣でなければ全く問題なく一瞬で元に戻るのだ。
あれは魔王の特権だった。
足がもつれて砂利の上で転けた時、それを実感した。
伝説の剣を恐れていたが、そんなものでは無い恐怖を味わった。
人間はとても脆いのだ。
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