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記憶
身支度のために姿見を見れば、鏡に映った姿は、前世と大して変わっていない黒い髪に黒い瞳に青白い顔。多少変化したことと言えば、付いていたはずの大きなツノとたくましかった筋肉は無くなり、女性という性別でこの世界を生きていることくらいだろうか。
奇しくも、言葉遣いだけがなかなか直らずあだ名は「魔王」だ。周囲は女性につけるあだ名にしては物騒この上ないと憐れんだが、懐かしい響きに、それほど嫌な気はしていない。
奇妙な目で見られてはいるが、それもまた懐かしかった。
高校生になり、通学距離が伸びると、さまざまな出会いがあった。
電車でチラリと見かけた快活で美しい少女は、何人目かの聖女だったろうか。
うっすらと頭の中でくるくると巻き戻る記憶は不鮮明ながらもその存在ははっきり覚えていた。
特段、心は動かない。
自分と同じく、命の種がポトリとこの大地に落っこちたのだろう。それだけのことだ。
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