再会

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再会

 桜の木が立ち並び、はらはらと落ちるピンクの雪が道を染め上げていく。  何度目の春だろうか。  大学の本館へと続く坂道、毎年聞こえてくる賑やかなサークルの勧誘が、新しい年が始まるワクワク感を演出している。もう2回繰り返したこの賑やかさには、特段気を取られることもない。  自分には関係のない勧誘を潜り抜け、学校に入ればまた一年が始まる。  少しばかり退屈には感じるが、一日中忙しく過ぎていく怠惰と勉学と娯楽の日々はじっくりと体に染み込んでいき、生の感覚を呼び覚ましてくれる。歳を取るという感覚が少しばかり加速するのがまた面白い。  パシリ、と音を鳴らして突如ぐんと腕を引かれて足を止めた。  存外強い力で掴まれた箇所を見れば、血色の良い良く日に焼けた大きな手が目に入る。  厚い胸板が目に入り、次は太い首に少し口角の上がった形の良い唇。スラリとした鼻筋に、柔らかく細まった瞳。そしてクリーム色の髪の毛。  はっと、息が止まる。  まるで時間が止まった様に、周囲の音も聞こえない。    それはどう見ても、私に剣を突き立てたあの勇者だった。最後に見た姿よりもほんの少しだけ成長した姿ではあったが、それにしてもすぐにわかった。 「おまえ......勇者......!?」 「ふふ、やっぱり......!魔王さんだ!」  パッと花が咲く様な笑顔ぐんと近づいたかと思うと、一瞬躊躇したのも一瞬で、突如、ガシッと大きな体が私を閉じ込めた。  驚くべきことに、勇者により抱きしめられているじゃあないか。  大学の、しかも、公衆の面前で、だ。  大公開。かつ、公開処刑とはこの事か。  このまま伝説の剣ではなく勇者の腕力で締め殺すつもりなのか!?ぐえ。  いや違うか。    パニックに陥りそうになる頭の中を空想で殴り飛ばし落ち着かせれば、何とかまともな思考が帰ってきた。 「や、お、おい、お前! いきなり何するんだ! 何故、私だと......! いや、何故再会を喜ぶ!?」 「何故...? 何故って、これを運命と言わずになんて呼ぶんだい? あんなに焦がれた存在がここにいるのに!」 「は? な、なに!?」  ふふふと嬉しそうに微笑む勇者は、そう言ってさらに強くぎゅっと私を抱きしめた。  異常に高い体温が服越しにも伝わってくる。バクバクと脈打つ音は一体どちらのものか。 「ずっとずっと、前世から忘れられなかった」  ぎゅっと抱きついたまま、絞り出す様な声が耳に届く。 「は......なんだと」 「前世では、ひどい事をしてしまった」 「ふん、お前は勇者で、私は魔王だったのだ。お互いの道はどちらかを滅する事によってでしか開けなかった。ひどい事ではない。私はあの時、安堵していた。もう魔王としての役割を終えれると......」  まぁ、私もお前の前に来た勇者は全て返り討ちにしているからおあいこだ。とまでは口には出さなかった。  私も今は人の心を持っている。ゆえにこんなのはただのクソリプである。ふん、と息を吐き出せば、「よか、った」そう言って勇者はずず、と鼻を啜った。 「まぁ、今世では何の縁もゆかりも無い間柄だ......ん?」  特段気にするな。じゃあな、そう続けようとすると、ゆらりと離れた勇者は、にゅっと腕を伸ばすと、その逞しい腕で私の肩をがちりと掴んだ。  先ほどの抱きしめた時とは違い、何の戸惑いも躊躇もそこになかった。  私を見上げる瞳に、ゆらりと影が滲む。  肩を掴んだ手は熱く、微かに震えている。 「縁もゆかりも......?違うよ、魔王さん......何故僕が勇者で、あなたが魔王だったのか。そんなことばかり考えていた。でもねこの世界は何もない。奪うものも、奪わなければならないものもない!この世界で再び会えたのは運命なんだ!僕は、僕は、君が......君が好きだって気がついたんだ......魔王さん!」 「は!?」  いつの間にか勧誘の声や、新年に心を躍らせる新入生の声は途切れ、静寂の中で私の声が響いた。  どこからともなく、ぴゅう、と空気を震わす耳障りな軽い音が空中を駆けた。  ハッとなり周りを見渡せば、全員が顔を赤らめてこちらを凝視している。  目の前には、真っ直ぐに見つめる青年の必死そうな赤らんだ顔。私を見つめる、その瞳の熱さに、顔が、頬が燃える様に熱くなった。  くらりと眩暈がして、暗転していく視界。  そこに映り込むのは、クリーム色の艶やかな髪。どこかで見た様な、そんな光景。
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