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運命か宿命か
ハッと目を覚ますと、白い天井が目に入った。
「死んだ......?」
「死んでないよ、魔王さん」
あまりにも突然の白い世界に、勇者にまたもや殺されたのかと驚き、これが宿命というやつかと思ってつい口にすると、即座に返事が返ってきた。
凛々しい眉をハの字に垂れ下げ、優しい声色で答えたのは勇者だった。
見たことのある表情だ。
服も、おそらく年齢も。
境遇も時代も、世界も違うが、その表情は私の胸に伝説の剣を突き立てたあの日に見せた表情と寸分の違いもなく、私を覗き込んでいた。
時間を見れば、もうとっくに昼だ。
驚いて飛び起きれば、そっと肩に手を添えられてパタリと布団の上へ戻される。
近付いた顔は、寝転ぶ私を覆い隠し、サラリと頬に垂れかかった。
「すまないな、君新入生だったんだろう? 時間をとらせてしまったな」
「そんなのはいいんだ」
「いや、しかし......看病してくれていた事には礼を言うが、君と私は敵だっただろう。私のために時間を無駄にするなど勿体無い」
「そんな事はない!」
ムスッとした顔のまま、肩に乗せ、布団に押し付けていた手にぐ、っと力が入る。「痛い」と文句を言えば、ハッとした様に手の力を緩めた。
ムスッとしていたのも束の間で、すぐにとろけた顔が、また私の瞳を見つめる。その目は、前世の魔王である姿の私を探す様にあちこち忙しそうに動き回っている。
しばらく沈黙が続くと、もぞりと勇者の体が動き、おもむろに私にもたれかかる。
暖かな体が、少しばかりの重みを持ってのしかかってくる。
「僕、魔王さんを生まれた時から探していたんだ。もし会えたらって。ずっとずっとあなたを忘れた事はなかった」
「私を......」
「そうだよ」
まるで逃げ出したくなる私の気持ちを見透かす様に、強い眼差しが、私を逃さぬとばかりに、捕まえて離さない。
「運命は何度でも塗り替えられるんだ」
勇者は嬉しそうに微笑んだ。
その力強い言葉に、私もなぜか、胸がぎゅうっと締め付けられる。
首筋をくすぐるクリーム色の髪の毛をそっと撫でると、柔らかな毛が、指に絡まる。
時を越え、世界を越えてこうやって引き寄せられたのは、果たして運命か、宿命か。
私は今のところ、運命に抗う術はないのだ。
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