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とある傍観者は前世を語る
越鳥南枝に巣くい胡馬北風に嘶くとはいうけれども、私もその1人なのである。
目の前にチカチカと輝く2人は、私が見届けた2人に違いなかった。
私は長らく魔王様にお仕えした側近の1人であったが、順々に退治されていく同僚達、わざと退治されるように勇者に向かって行った者達。
私も同様だった。
人間の相手にほとほと疲れた私は魔王様に相談の上吸収される事を選んだ1人だ。
「ご苦労だったな……裁かれるのは自分1人で十分だ」
そう魔王様が呟いた言葉を最後に私の記憶は途絶えている。
言うべきか言わぬべきかと苦悩した時もあったが結局のところ言わずに居るべきだと判断している。
私が任されている大学保健室。
ここは薬と消毒液の匂いで溢れていて、実に前世の自分とはかけ離れた香りだった。
缶コーヒーを手に持って、保健室の扉に手をかければ、コソコソと話す声が聞こえてきた。
「魔王さん、魔王さん早く目を覚ましてよ」
聞いたことのある声に思わず口に含んだ珈琲を溢しそうになったが、グッと堪えて、そっと様子を伺えば、倒れた魔王様に寄り添う勇者殿の姿があった。
魔王様がこの大学にいらっしゃるのは知っていたが、よもや勇者様までとは。
何ともあの頃を思わす2人を見ると帰りたい気持ちがワッと湧き出してくる。
はるか昔、遠い前世でも魔王様の事を追いかけ回す勇者様を思い出す。
どちらかが倒すまで続く人間と魔王との戦い。
ここまでくると、これは運命としか言いようがないではないか。
そっと、保健室にかかった手を離し、長い廊下を引き返す。
窓からは美しい桃色の花びらが雨のようにふりそそいでいた。
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