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レジ締めや仕込みも終わり、私達は入り口付近の四人掛けのテーブル席に向かい合って座った。
ここまで改まると、嫌な予感は払拭できない。
「……来月一杯で退職させてください」
予想は的中した。
ショックを隠せず、呆然と固まり彼を見つめる。
ガクッと気持ちが落ちてしまった音がした。
「なんで……そんな、急に」
声が震える。
全くもって店長の威厳がない。
それだけ総史郎くんに頼り依存してきたのだと思い知った。
「実は、この間賞とった作品、書籍化することになって」
「……本当に!?」
途端に萎んでいた胸が躍った。
さっきから落ち込んだり上がったりで忙しい。
「すごい!おめでとう!作家デビューの夢が叶ったんだ!」
総史郎くんは浮かれる私とは反して、しっかりと地に足をつけているかのように落ち着いた笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます。店長のおかげです」
「私の……?」
戸惑いを隠せない私に、総史郎くんは柔らかく微笑んだ。
「店長とこの店のおかげで、執筆活動続けられました。店長見てると、創作意欲が湧いてきて」
「なんで!?」
「……ずっと好きだったんです。店長のことが」
彼が何を言っているかがしばらく理解できずに、言葉を失う。
フリーズする私を苦笑して、彼は続けた。
「ずっと好きだったけど、俺、フリーターだし。やっと夢が叶ってそろそろ気持ち伝えられるかなって時に、他の人にとられちゃったんで」
「そんな……」
落胆して声が出なかった。
彼の気持ちを少しもわかろうとしなかった、自分の愚かさと鈍感さにだ。
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