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「……ごめん……」
彼がどんな気持ちでお店を支えてくれていたのかを思うと、罪悪感でとても好意を喜ぶ心の余裕はなかった。
私は総史郎くんを利用していたんじゃないか。
都合良く頼って、甘えていたんじゃないか。
「謝らないでください。余計キツいんで」
総史郎くんは寂しそうに笑った。
「もう吹っ切れてるんで大丈夫っす。俺、落ち着いたら一度海外行っていろんなものを見て、大作書こうと思ってるんで。楽しみにしててください」
「……っ絶対!読む!ずっと応援してる」
差し出された手を強く握る。
「楽しかったすよ。LUMIEREで働くの。まったりして、優しい時間が流れてて」
「……ありがとう。私も、総史郎くんと働くの楽しかった」
溢れそうになる涙を必死に堪えた。
せめて泣いてはいけない。
店長として、毅然とどっしりと、彼を見送らなければ。
「総史郎くん、本当にありがとう」
好意を持ってくれたことも、お店を支えてくれたことも。
「……そういえば、小説の中の新婚、幸せにすることに決めました」
「総史郎くん?」
「……だから店長もあの人と、幸せになってください」
最後まで彼の優しさに助けられてしまった。
私は精一杯笑って頷く。
「ありがとう……。総史郎くんも、夢に向かって羽ばたいて」
頼もしく頷く総史郎くんに、少しだけ胸が軽くなる。
「まあ、あと一ヶ月はいるんで」
「よろしく!」
そうして私達はお店をあとにした。
アルバイトの求人募集や、新体制のシフト作り、考えなきゃいけないことがたくさんあるけど。
「おかえり。ほまれさん」
「ただいま……」
やっぱりまだ、頭の中が混乱していて余裕がない。
自分の不甲斐なさにも落ち込んで。
「どうしたの?何かあった?」
「え?……ううん。なんでもない!」
しっかりしないと。
瑞穂さんにも心配をかけてしまう。
とてもじゃないけど、総史郎くんに告白されたなんて言えないし。
「瑞穂さんも今帰ってきたんでしょ?お疲れ様。今夕飯を……」
「……ほまれさん」
「何?」
瑞穂さんが私の腕をしっかりと掴む。
「……瑞穂さん?」
「ちょっと俺に付き合ってくれない?」
そう言って、瑞穂さんは突然私を外に連れ出した。
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