あなたの隣で

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「瑞穂さん?ちょっと待って」  辿り着いたのはマンションの駐車場。  彼の愛車が待機しているバイク置き場まで進むと、私にヘルメットを差し出した。 「これ……」 「ほまれさんの、実は用意しておいた」  花がプリントされた小さめのヘルメット。  目を丸くする私に、瑞穂さんは自身もヘルメットをつけながら言った。 「ツーリングに付き合って」  彼がこんなことを言うのは初めてのことだった。  くすぐったく思いながら頷いて、私もヘルメットを被る。 「後ろ乗って。俺にしっかりつかまって」 「わかった」  エンジンをかけ、勢いよくバイクが走り出す。  びっくりするほどの高揚感と爽快な気持ちに胸が躍った。  初夏の夜の風の中で、声を上げそうになるのを我慢する。  しがみつく瑞穂さんの背中は温かい。  とても頼もしくて、これ以上ないくらい安心する。  そのまま私達は、首都高に乗って颯爽と走った。  深夜の都会の夜景は煌びやかで美しく、まるで眠りを忘れたみたい。  その光はなんだかとても優しく温かなものに感じて、私はまた涙が出そうになるのを堪えた。  たくさんの人達が行き交うこの東京で、お見合いして、彼と出会って。  二人してすぐに結婚を決めたこと、後悔なんてしていない。  むしろ奇跡だ。  速まるスピードの中、彼の後ろ姿を見つめ何度も噛みしめて思った。  背中に顔を埋め、ぎゅっと抱き締めて。  柔らかな光と夜風の中、いつまでもこうして二人で走り続けていたいと思った。
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