あなたの隣で

10/13
前へ
/77ページ
次へ
「甘いものはお好き?」 「はい!大好きです!」  お母さんはふんわり笑う。 「良かった。シャインマスカットのタルトが美味しそうだったから買ってきたの」  ワンカット1000円超えの高級タルトだ……。 「マンゴーもむきましょうねえ」 「お、お手伝いします!」  フルーツのカットなら得意だ。 私にも手伝えることがあるはず。  そう思って立ち上がった瞬間、キッチンのお母さんを見て絶句した。  動きに無駄がなさすぎる。   マンゴーのカットも美しく器用な盛り付けで。  ……私の出る幕がない。 「ありがとう。座ってて。もうコーヒーもはいったから」  気品あるアンティークのティーカップに固唾を飲み込んだ。  ……何もかも完璧だ。  完璧すぎて、気後れしてしまう。 「い……いただきます」 「いただきます」 「どうぞー」  きびきびと動きまわって準備をしてくれるお母さん。  私が手伝える隙が無い。  当たり前のようにコーヒーを飲み始める瑞穂さんとお父さんにも距離を感じた。  なんだか住む世界が違うように思えて。  隣の瑞穂さんが、急に遠くに行ってしまったみたい。  私が鈍臭くて平凡で、大雑把な人間だと知ったら、お父さんとお母さんはどう思うんだろうか。  お嫁さんとして、受け入れてもらえる?  不安が募って美味しいタルトも喉を通らない。  早くも心配になってきた。  私、瑞穂さんの家族の一員になれるのかな。 「コーヒー、美味しいわね」 「そうだな」  優雅な二人に精一杯微笑むけど、頬が強張って痛かった。   「ところでほまれちゃん。挙式についてはもう考えてあるの?」   突然の質問に戸惑う。  まだ籍を無事に入れられるかどうかの瀬戸際だったので、挙式についてなんて考えてもいなかった。 「い、いえ。まだ何も……」 「本当!?」  驚愕した様子のお母さんに面食らう。  もしかして、先のことを何も考えていないことに呆れているんだろうか。 「じゃあ、新居については?」 「それも……まだ……」 「そうなの?」  目を丸くさせるお母さんに、もう笑顔を浮かべる余裕もなくなっていた。  まったりしすぎな私と、完璧なお母さん。  これから、うまくやっていけるんだろうか……。 『義両親との関係が、これから結婚する上で結構大きく関わってくるから』  智恵さんの言葉を思い出し、そっと天を仰いだ。  
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2147人が本棚に入れています
本棚に追加