あなたの隣で

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「挙式は和装と洋装どっちにする?」 「ええと、ちょっとまだ……」 「新婚旅行は海外?」 「それも、これから話し合って……」 「結納はいつにしましょうか」 「えーと……」  質問攻めに何一つ答えられない。  もしかして、結婚したらこれがずっと続くの?  “子供はまだ?”“仕事は続けるの?”なんて。  お母さんの勢いに圧倒され、正直言って少し辟易してしまった。  見たところ完璧主義者のようなお母さん。  もし彼女の納得のいくような挙式や夫婦生活にできなかったら、どうなってしまうんだろうか。 「あの……」 「じゃあ、ほまれちゃん、」  お母さんが次に何か言うのに怯んでしまった。  ちょっと待ってください。そう叫びそうになるのを堪える。 ____「いい加減にしてくれ」  思わずぎゅっと目を瞑った私の隣で響いた瑞穂さんの声。 「母さん、ほまれさんを困らせないでくれ。そういう話のひとつひとつは、俺達二人がゆっくり考えていくから」  瑞穂さんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。  彼は私に寄り添ってくれた。  私の不安を察して、私のペースに合わせてくれようとしていることが嬉しかった。 「そう……ね。ごめんなさい……」  だけど途端に表情を曇らせるお母さんに胸を痛める。   まるで余計なお世話と一蹴してしまったみたいで、今度は罪悪感が募った。  ……気を悪くしてないだろうか。  心配で、俯くお母さんを見つめると、ずっと黙っていたお父さんが口を開く。 「……すまないね、ほまれさん。母さん、ずっと今日を楽しみにしていて、……暴走してしまったようだ」  ……………………? 「…………暴走?」  真っ赤になって小さくなり顔を覆うお母さんに代わって、お父さんが説明する。 「ほまれちゃんに会うの楽しみにしすぎていたようで、張りきって家中掃除して食器も一新して。普段はこんなんじゃないんです。ほまれちゃんに食べさせたくて、高級そうなもの片っ端から用意したんです」 「………………ごめんなさい」  予想外のカミングアウトに、今度は私の方が目を見開いた。  ……じゃあ、てきぱきとお世話してくれたのも、私の為に……。 「ずっと会いたかったのよ。だって息子が初めて連れて来た大切な人なんだから」  恥ずかしそうにそう告げるお母さんに、目からじわりと涙が溢れた。
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