能動的結婚か運命の恋か

5/18
前へ
/77ページ
次へ
「瑞穂さん、ごめんね」  家に着いた途端に再び謝る私に、瑞穂さんはなんてことなく笑ってくれる。 「大丈夫だよ。気にしてない」  言葉通り穏やかな声色にホッとする。  だけど伊織があんな発言をするなんて。  敦の話まで出るなんて思わなかった。 「きっと、ほまれさんのことを心配して言ったんだと思うから」  どこまでも優しい瑞穂さんに、怒りや困惑で動揺していた心も和らいでいく。 「……ありがとう」  ほらね。やっぱり伊織の心配は杞憂にすぎない。  瑞穂さんは私を騙してなんかいないし、私にはもったいないほど素敵な人なんだから。 「……あのさ、ほまれさん」  二人で飲み直そうと冷蔵庫を開けた私に、瑞穂さんは背後から小さく言った。 「……“敦”って」  ハッとして振り向くと、どこか気まずそうに目を伏せる瑞穂さん。  そうだよね。これから結婚するって時に違う男性の名前が出てきたんだもの。気になるに決まってる。 「……うん。元カレ」  私は彼を真っ直ぐに見つめ、包み隠さず話すことを決めた。  それが瑞穂さんに対する誠実な行動だと思ったから。 「大学卒業した時に付き合ってたんだけど……すぐに別れた。振られちゃって」 「そっか……」  瑞穂さんのグラスにビールを注ぎ、ダイニングに座るよう促す。  私も向かい席に座って、小さく乾杯する。  ビールを呷るタイミングも、グラスをテーブルに置くタイミングも一緒だった。  それが妙に嬉しくて、ふっと噴き出す。  やっぱり、彼と一緒に居る時が一番落ち着く。 「……会わないから。絶対」  誓うようにそう伝えると、瑞穂さんも微笑んで頷いてくれる。 「……うん。ありがとう」  元カレなんかと会うわけない。  こんなに素敵な旦那さんがいるんだから。 「……でもさ」 「何?」  瑞穂さんはぐっとビールを飲み干して、紅潮した顔で真剣に私を見た。 「……今日はすごく、すごくいちゃいちゃしたいです」 「え!?」  恥ずかしそうに目を逸らす瑞穂さんは可愛い。 「もしかして、焼きもち焼いてくれてます?」 「……面倒な男でごめん」 「とんでもない」  可愛いくて、嬉しくて、堪らず彼の手を握った。 「もっと好きになりました」  微笑み合って、手を握って。   「いちゃいちゃしましょう!すごく!」 「……よっし!お風呂入れてくる!」 「じゃあ私は寝室の整備を!」    変なところでチームワークが抜群な自分達がおかしくて、浴室から聞こえるご機嫌な鼻歌に笑った。  
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2148人が本棚に入れています
本棚に追加