能動的結婚か運命の恋か

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 光に当たると少しだけ茶色に見える色素が薄い髪。  屈託なく無邪気にくしゃっと笑う顔。  昔と全く変わっていない姿に胸が締めつけられる。  柏木(かしわぎ)敦。  私の幼なじみで、長年片想いしていた相手だ。 「ほまれ、変わってないなー」 「なんで……」  上ずる声が情けない。  動揺なんてする必要ないのに。  もう、私達はなんの関係もわだかまりもないんだから。 「聞いた?お店の取材、俺が担当するから」 「は!?」  敦は久しぶりの再会なんて雰囲気を微塵も感じさせずに、まるで昨日まで普通に会っていたのかのように笑う。 「俺、一応プロの写真家になったのよ。“さすらいのカメラマンが出会う街の愛されカフェ”って特集」  渡された名刺を見つめる。 『Photographer ATSUSHI』  彼は本当に写真家の夢を叶えたんだ。  もうとっくに吹っ切れている今だから、素直に祝う気持ちになれた。  あの時別れて良かったのだと、昔の自分も褒めてあげたいほど。 「……良かった。おめでとう」  思わず顔が綻ぶと、彼も満面の笑みを見せた。 「ありがとう。ほまれ」  ……が、それとこれとは話が別だ。  お店の取材が敦ってどういうこと。  そんな偶然ある? 「俺、正直カフェとか詳しくなくてさ。伊織に聞いてみたら教えてくれた。ほまれ店長やってるって」 「伊織……」  ことごとく余計なことを……。 「店長、お知り合い?」 「あ、……そう。…………幼なじみ」 「敦です!来週の取材でお世話になります」 「店長の幼なじみさん!?」 「コーヒー飲んでってください!」  昔から人懐こくて社交的な敦は、あっという間に結子ちゃんや智恵さんと打ち解けてカウンターに腰かける。  まずいことになってしまった。  ……瑞穂さんに、「敦とは絶対会わない」って誓ったのに。 「おっ!コーヒー美味いっすねー!」 「ありがとうございますぅ!」 「………………」  私の一存で今更取材を断るなんてできない。  冷や汗を滲ませて途方に暮れる私を、総史郎くんだけは訝しげに見ていた。  
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