能動的結婚か運命の恋か

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「……定休日なのに、灯りついてたから……」  血の気が引いて、目眩がしそうだった。  慌てて敦から離れて、弁解の言葉を考える。  だけどその傷ついた顔を見たら、頭が真っ白で上手く声が出なくて。 「……瑞穂さん、違うの」  震える足で瑞穂さんに近づこうとする私の腕を、敦が力強く掴んだ。 「ほまれ、結婚なんかすんなよ。俺、まだお前のこと好きなんだ」 「何言って……」  狡い。今まで散々振り回して、ずっと音沙汰なかったのに。  今更そんなこと言うなんて。 「お前置いていったこと、今でも後悔してる。誰と出会っても、どんな綺麗な風景見ても、お前のこと思い出してたんだ。こっちに戻ってきたら、もう一度やり直したいって伝えようと思ってた」  真剣な表情と声に怯む。 「でも、私は」  私は瑞穂さんと結婚したい。  彼の手を振り払う。 「伊織から聞いたよ。お見合いなんだろ?そんなん、誰でも良いってことじゃん。だったら俺だって」 「ふざけないで!」  お見合い。確かに私達は、最初から何の理由もなくお互いを結婚相手に決めた。  最初に出会った人と結婚するって。  でも今は。 「まだ籍入れてないんだろ?それって運命だよ。俺達まだやり直すチャンスがある。長年一緒に居た、気心知れた仲の方が上手くいくって」 「やめてよ!」  今度こそ敦から背を向け瑞穂さんに駆け寄る。  ……大丈夫。  私の気持ちは変わらない。  瑞穂さんじゃなきゃ、結婚する意味がないって思っているから。 「瑞穂さんごめんなさい!彼とは何もないから。私は、瑞穂さんと結婚……」  だけど瑞穂さんは、とても冷え切った目をしていた。 「……瑞穂さん……?」  嫌な胸騒ぎがする。  まるで瑞穂さんは、すっかり心を閉ざしてしまったみたい。 「……結婚、白紙に戻したい」  信じられなかった。  踵を返す瑞穂さんに、情けないくらい縋りつく。 「ちょっと待って。……噓ついてごめんなさい。でも私は」 「……しばらく頭を冷やしたいんだ。悪いけど、自分のマンションに戻って」  もう弁解するのは無理だ。  そう悟って、力が抜けたように立ち尽くす。  ……傷つけた。  噓をついて彼を裏切って。  取り返しのつかないことをしてしまったんだ。  夫婦にとって、信頼関係が一番大切なのに。  憔悴しきって、涙も出てこない。  店を出て遠ざかっていく彼の後ろ姿を、力なくいつまでも見つめていた。    
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