第一章 沈黙の護衛騎士

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「レーム、短い間ですがよろしくお願いします。護衛といっても、こんな雪深いところに来る者もいませんが……、お父様が心配されたのね」  ほう、と短い息を吐いたユリアナはチリンと鳴る鈴の方に顔を向けた。 「聞いていると思うけれど、私はこの通り目が見えません。片足も悪いから、護衛騎士というよりは、私のお世話係のようになってしまうわね。……手を、貸してくれる?」  カツン、カツンと靴音を鳴らせながら男は近づくと、イスに座るユリアナの前に来て片方の膝をついた。——騎士が主人に忠誠を誓う時の姿勢だ。  そっと差し出したユリアナの白く細い手に触れた男は、片方の手で剣をカチャリと鳴らしながら顔を手に近づけた。そしてチリン、と鈴をひとつ鳴らし手の甲に静かに唇を落とす。  彼の柔らかい唇が素肌に触れた瞬間、聖女はまるで全身を熱で包まれたように感じて身体を小さく震わせた。後ろに立つ執事もひくりと息を呑んでいる。  しばらくして、ユリアナはため息交じりに声を零した。 「……まぁ、こんな私に誓い立てをしてくれるなんて。ほんの少しの間だけど、嬉しいわ。ありがとう、レーム」
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