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騙されて笑っている大山さんを見て、狭山さんは面白くなさそうな顔で言った。
「お前は騙し甲斐がない」
それ以来、狭山さんは大山さんに手を出さなくなった。
しかし相変わらず、他の者にはうそ八百を並べ立てて、落ち込ませたり、怒らせたり、泣かせたり、とにかくやりたい放題を続けていた。大山さんは、
「そんなことをしてはいかんよ。正直に生きるのが一番じゃ。老いてからは特にな」
と諭すのだった。けれども狭山さんは、
「えらそうに。正直に生きて何になる? 正直者は馬鹿を見るという言葉を知らんのか」
と、聞く耳を持たなかった。
「いつか恐ろしい目にあってしまうよ」
「わしに怖いものなど、ない!」
狭山さんは、依然、うそをやめない。当然のように人は彼から離れていく。しかし狭山さんは気にもとめなかった。
「一人の方が清々する」
そうして、新規の入居者や職員など、カモを探してはうそをつくのだった。
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