正直者のじいさん

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 狭山さんは大山さんをにらみつけ、 「ああそうか、『オオカミ少年』のつもりだな? いつもうそをついているから、肝心なときに信じてもらえない。そう言いたいんだろう。そんなつまらんことが言いたいために、こんな茶番をうっているのか」  唾を飛ばして激昂する。 「馬鹿にするな! さっさと眼鏡を返せ。さもないと……」 「いや、そうじゃないよ。狭山さん、あんた普段眼鏡なんかかけておらんじゃろう」  ぴたり、と狭山さんの動きが止まる。大山さんは訊ねる。 「いつ眼鏡なんか買ったんじゃ? 最近か?」  狭山さんは言い返そうとして口を開く。しかし言葉が出てこない。 「どうしたんじゃ? 狭山さん。眼鏡をなくしたんなら、みんなで探すよ」  だが狭山さんは、ただ青い顔をして、突っ立っているだけだ。  しばらくして、狭山さんは何も言わず、ふらふらとした足取りでリビングから去っていった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加