眠れぬ夜は……

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 まだ諦めない。瞑想がある。集中すれば雑念が払われて、風のない湖面のような心持ちになる。ヨガ教室の先生がそんな説明をしていたことを思い出して私はひとりウンウンと頷く。  それらしくベッドの上であぐらをかいて目を閉じる。インドにいそうなヨガの達人になったつもりになって心を無にして……。でも無にするってどうやるんだろう。そもそも無ってどんな状態?  そう思った途端、なぜだか仕事関係のやらなくてはならない案件、TO DO リストが芋づる式に次から次へと頭の中に入り込んできた。その芋づるで首を絞められた心地になって慌てて目を開ける。私みたいな素人が、切羽詰まった状態で瞑想をやろうとしても駄目なのかもしれない。  そうこうしている間にも睡眠時間は削られていく。それでも睡眠導入剤は飲みたくない。半日は頭がぼんやりして余計仕事がはかどらなくなってしまう。それなら寝不足の方がまだマシだ。枕元に置いてある目覚まし時計を見ると零時五十五分。これ以上もたもたしていたら夜明けまで眠れないパターンにハマってしまう。  はあ、とまた吐息をつく。それからスマホを手に取って電話帳をタップ、カシワギユウジという名前を表示する。薄暗い部屋でぼんやり光る画面をしばらくみつめる。  これは最後の手段。だけど今夜は出すしかない。  ユウジは大学の同級生だ。真面目ちゃんなんて言われていた私と自他共に認めるチャラ男なユウジはなぜかウマがあって、お互いに彼氏や彼女がいても、学校を卒業してもたまにご飯を食べにいく関係が続いている。
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