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ユウジはお笑い芸人になると周りに宣言し、就職したばかりの会社をやめた。それでも芸人としての仕事なんてほとんどないから、短期のバイトで食いつないでいる。
そんな彼は夜中にいきなり電話をしても全然怒らない。むしろ喜ぶ。ただし酔っ払って寝てしまっていたり、芸人仲間とライブ後の打ち上げで盛り上がっていると電話に気づかないこともあるので奥の手として万能ではないのが玉に瑕。
ふう、と大きく吐息をついて祈るような気持ちで電話番号をタップする。三回コール音が響いた後、彼が出た。
「あ、ユウジ? 私。夜中に起こしてごめん。うん。また眠れないんだよね。だから……例のアレ、お願いしてもいい?」
受話器の向こうにいるユウジの反応に思わず笑みがこぼれる。寝ぼけ声で自分の頬をピシャピシャ叩いている気配。私はホッとしてスピーカーモードにして枕元にスマホを置く。そこから響いてくるユウジの気合いの入った声。
『あのな、今夜こそマヨを寝かせないからな。覚悟しろ!』
目が醒めてきたらしいユウジは不穏なコトを言いながら嬉しそう。入眠率九十パーセントを誇る秘密兵器で最後の手段。それは彼の漫才を聴きながら寝落ちすること。
制限時間は三十分。私が笑ってしまい最後まで寝なかったら彼にちょっといいご飯を奢る約束だから金欠のユウジは本気で喋り倒してくる。
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