一 めのう屋の離れ座敷にて

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「このお潤は先代のめのう屋主人、弥左衛門にみっちり忍びの技を仕込まれております。あなたさまが盗み出してもらいたいという品を、必ずお潤は奪ってみせますよ」 「ええ」お潤もうなずいた。「依頼金は五両。やっかいな案件によっては必要経費がそれに上乗せになります。それから、金や宝には手を出さないというのがあたしの身上なの」 「五両の金で雇われて、金や宝には手を出さねで、普通なら誰も欲しがらねえ奇妙な品をもっぱらに盗み出す女賊……。まさか、そんたら者を雇う羽目になっとは……」  牛島屋重右衛門は吐息をついて視線を膝の上に落とした。悄然と肩を落とす牛島屋重右衛門を、お潤はうながした。 「小諸宿と言えば北国街道の要衝。加賀前田家の行列が使うだけでなく、越後と関東の間では鮭や真綿、米、煙草や油かすなどの荷が行きかうのでしょ? 牛島屋さんは小諸宿で、田畑を養うだけでなく荷物や手紙を輸送するお仕事もなさっているのでしょうね」 「へえ、確かにウチの人馬を宿駅に出してっけども……そんたらこと、いつ口に出したべか?」
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