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第4話 – 知っている
2023年5月13日 (土) 午後6時17分
はかた駅前通りの大きな歩行者信号が点滅して赤になろうかとういう時、あと少しで博多駅正面、西日本シティ銀行と楽天グループ福岡支社が構える道へと辿り着くところでマッシュショートボブの若い女性を白いセダン車が勢いよく撥ねる。彼女の肉体はまるで空中で止まっているかのように大きく宙を舞い、そのまま弧を描いてコンクリートへと激突する。セダン車はそのままスピードを緩めずに博多駅地下駐輪場入り口の方へと突っ込んでいく。博多駅前交番から慌てた警察官が出てくると、車の方を見た後に周囲の悲鳴や助けを呼ぶ声を聞いて道路に横たわる女性の方へと向かう。
◆
私の意識が遠のいていく中で頭部から全身へと今まで感じたことのないほどに気持ちの悪い感触が広がっていく。回数を重ねることで私は冷静に死ぬ瞬間の感触を味わえるようになった。
––––これが私に与えられた死ぬ直前の感覚か。
「お祖父ちゃん、最期は苦しまなくて本当に良かった……」
5年前、大学3年生の時に亡くなった祖父の火葬が終わった時に母が涙ぐみながら呟いた言葉だ。祖父の最期は病気や怪我ではなく徐々に状態が衰え、自然に呼吸停止して死亡するという老衰死だった。私たち家族に囲まれて自宅で穏やかに、眠るようにして86年の生涯を閉じた。
死を迎える頃には食事量や水分量が減っていき、話すこともなくなってしまっていたが、先生の「苦しむことなく静かに亡くなられたことでしょう」という言葉は祖母や母をはじめとした私たち親族一同への心の救いだった。
対する私は?
3歳から始めたピアノ。そして中学生の時に出会ったジャズ。私は学校の成績を取れなければピアノを辞めさせるという条件を突きつけられながらも努力を続けることができた。なぜなら音楽は私の心を魅了し続け、ジャズピアニストになることは自然と私の夢となっていたからだ。いつしかその夢は膨張していき、海外音楽留学へとその視線は向けられた。
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