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「無理よ、そんなの」
私の希望を打ち破る母の言葉。私の目指していた名門であるケント音楽大学の1セメスター当たりの学費は約2万ドル。卒業までに必要なセメスター数は8つで16万ドル以上の費用がかかる。日本円にすると実に2000万円以上である。私は入学オーディションで獲得できる返還不要の奨学金について説明し、必死に両親を説得し続けた。
「チャンスは1回。そして全額奨学金のみよ。半額でも無理。ただでさえ音楽なんて不安定な職業。あんた上手いって言ったって最低でもそれくらいじゃなきゃ食べていけないでしょ」
私は国立大学受験の傍ら、ケント音楽大学のオーディションを並行して受験したものの半額奨学金しか獲得できず、そのまま合格した九州大学へと入学した。親の資金援助を得られないことから私は全額奨学金による合格を目指しつつ、バイトの掛け持ちで海外生活費を大学生の時から貯金し始めた。安心できる生活費を貯めようと決意し、社会人になってもしばらく貯金を続け、4回目のオーディションで遂に全額奨学金による合格を勝ち獲った。
そして渡米まで3ヶ月ほどとなった今日、死を迎える。その死は祖父のような穏やかな死ではなく、大きな後悔を残しながら気色の悪い血の感触と激痛を伴うものだ。
死は徐々に私の身体を蝕む。
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