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「あははははははは」
コンクリートの上で仰向けになって全身を赤い血の海で覆われて溺れていく感覚に陥った後、目を覚ますとまたしても暗い世界で双子の笑い声を聞きながら私は横になっている。私は起き上がってこう言うのだ、どうして、と。
「どうして……どうして!」
そして私は嘔吐するのだ。
「オエェ……」
私は口から大量の吐瀉物を地面に這う黒い糸状のノイズのような何かに向けて撒き散らす。双子が腕を口の前にやる動作を視界の端に捉えた私は彼女らの言葉を予測する。
「汚い!」
「汚い!」
––––ドンドン
目の前に現れた木製扉がノック音を鳴らす。私は震える足で立ち上がり、ドアノブに手をかけるのだ。小さな声で開けなきゃ、と言いながら。
「開けなきゃ」
直後に耳に触れるキイィという木の軋む音。シンセサイザーで使うノイズなんかよりも不愉快なノイズだ。扉の中からゾゾゾと忌まわしい音を立てながら黒い何かが私を包み込んで扉の中へと引きずり込む。
私は願う。もっと前に。もっと前に。横断歩道を渡るその前に。
2023年5月13日 (土) 午後6時17分 私は蝶のように舞う。
「どうして……どうして!」
私は叫ぶ。双子の私を笑う声が鳴り響く。
「オエェ……」
私は嘔吐する。直後に聞こえる双子の私を罵倒する声。
「開けなきゃ」
目の前の扉に向かって私は歩く。不快な音が耳を貫く間、私は願うのだ。
––––前に。前に。もっと前に。横断歩道を渡るその前に。
2023年5月13日 (土) 午後6時17分 私は死んだ。
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