3人が本棚に入れています
本棚に追加
––––何も変わっていないのか
これまで私は「どうして」と泣き叫びながら嘔吐し、双子に罵声と嘲笑を浴びながら目の前に現れる扉を開けて繰り返される悪夢へと向かっていた。しかし、初回は異形の女の存在と彼女との問答があった。それがなければ2回目以降と同じように泣いて吐いて笑われて……という一連の流れを繰り返していただろう。
何かを変えなければ、そう思い立った私は震える足を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「あなたたちの……お姉さんはどこへ行ったの?」
私は振り絞るようにして声を出し、扉の背後で胡座をかいて浮遊する双子に尋ねる。
「ニタニタニタニタ」
「ケタケタケタケタ」
双子は私の言葉に答える様子はなく、私を見つめながら不気味に笑い続ける。
「お姉さんはどこへ行ったの?」
今度はハッキリと、明瞭に言葉を投げかける。
––––キイイィ
「どうして」
双子の前にある扉がゆっくりと開かれる。扉の中の暗闇からゾゾゾという悍ましい音を立てながら黒い糸状の何かが私の全身を覆い尽くす。私の肉体はそのまま扉の中へと吸い込まれるようにして姿を消す。
「ニタニタニタニタ」
「ケタケタケタケタ」
双子の笑い声が静まり返った空間で反響する。
「お姉様だ」
「お姉様だ」
双子が姉の姿を見て目を輝かせると地面から黒い液状の帯が彼女たちを囲み、ボールのような形になってそのまま上空へと跳躍する。
「……」
冷んやりとした感触が背後から私を包み込む。この感覚には覚えがある。血の気がなく人間味を感じない、もはや親近感さえも抱かせるほどの寒気。それはコンクリートに激突して生温かい感触が全身に広がっていったその後に私の身体をかけ巡る凍てつく冷たさと同じもの。異形の女だ。
「ねぇ、あなたもう気付いているんでしょう?」
彼女は私に優しい口調で問いかける。彼女の言う通り私は気付いているのだ。
––––私?
さっき扉の向こうへと吸い込まれたのが私だとしたら……それならば今、異形の女に話しかけられている私は?
「あなた、もう人の形なんてしてないわよ」
彼女がその言葉を発した後すぐに双子の笑い声が遠くから聞こえ始め、それは徐々に近付いてくる。
「目玉だ」
「目玉だ」
そう、私はずっと見ていたのだ。
セダン車に撥ねられて私の肉体が宙を舞っている瞬間も。泣き崩れて悲痛の叫びを上げている瞬間も。双子に笑われている瞬間も。扉の中へと私が向かう瞬間も。
私は私を見つめていたのだ。この暗い空間で。不気味な巨大な目玉となって。
最初のコメントを投稿しよう!