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「いつからかしら?」
いつから? 私はいつからこの暗闇の中で無数に存在する目玉の一部となった?
––––私は運命に抗おうとなど初めからしていなかったのだ。
そうだ、私が運命に抗えていないことを気付いた時だ。あの時から私はもう1人の私の感覚を共有しながら私自身を見つめていたのだ。
ふと私に触れていた冷たい感触が離れる。私の目の前に異形の女が背を向けたまま降り立ち、彼女の両手には髪の長い少女の首が持たれている。後頭部しか見えていないものの、その首からは双子の笑い声が聞こえており、私は身震いする。
彼女は私の方を振り向きもせずに目の前の扉に向かって歩き出す。その間に手の平に乗っている2つの首がゆっくりと回転し、私の方を見る。
「一緒」
「一緒」
振り向かれた顔には目鼻はなく、ただ大口を開いて笑っているのみ。私はその禍々しい異常性に恐怖し、言葉を失う。扉が閉まりきる直前、異形の女は僅かにこちらへ首を動かして私を見つめながら闇の中へと進んでいく。
「私の名前は渇きし者」
姿が完全に消える前、彼女は自分の名前を私に告げるとさらに「楽しんで」と小さな声で呟きながら闇に飲まれていった。
しばらくすると別の扉の中から眩い光を放ちながらこちらへと歩いてくる白いワンピースに金色のロングヘアをなびかせた少女が現れる。この場所とは不釣り合いなその輝きは私に久しく感じていなかった温もりを抱かせる。
「私は案内人」
彼女はそう言って私に手を伸ばすとそのまま頬ずりをすると、軽く口付けを施した。
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