第3話 – 不可避

2/3
前へ
/19ページ
次へ
◆  福岡県博多駅  福岡の陸の玄関口、博多駅。そこにそびえ立つ巨大なビルである『JR博多シティ』は「買う、食べる、遊ぶ」の多くの要素が集合した複合駅ビル群。東側の筑紫口にある博多デイトスとアミュエスト、西側の博多口にある博多阪急、博多アミュプラザの4施設で構成されている。さらに博多口には博多1番街、KITTE博多、JRJP博多ビルなども備わり、より多くの商業施設が集まっている。  博多口はガラス張りの建物であるKITTE博多をはじめとしてモダンな造りをしており、ここ数十年間外観の変わらない筑紫口とは雰囲気が大きく異なる。博多口はJR博多シティ正面のロータリーと大きな広場があり、ここでは時々イベントが開催される。この広場を越えると大きな横断歩道が現れる。この通りは『はかた駅前通り』と呼ばれ、キャナルシティ博多へと繋がる。 ––––2023年5月13日 (土) 午後6時17分  日の入りが近くなって気温が少しずつ下がってきたためか、はかた駅前通りの人の数が徐々に増えてきた。この通り自体はオフィスビルが立ち並ぶ大通りといったもので特別立ち寄るものが少ないため、ここを歩く人々は足早に通り過ぎていく。赤信号になると群衆は立ち止まり、汗をぬぐいながら友人や家族と談笑したり、携帯をいじったりして時間を潰し始める。  はかた駅前通りをセダンやクーペ、軽自動車、バスや大型トラックといった多くの車が横断していく。やがて信号が黄色へと変化するとちょうど横断し切ろうかという車以外は徐行し、赤信号に備えて停車する。  やがて完全に車が停車すると各自動車のエンジン音を除いて静かな時間が流れる。人々は正面に構える信号機が青に変化するのを今か今かと待ち続ける。信号が青に変わると再び時は流れ始め、一斉にはかた駅前通りの横断歩道を多くの歩行者が通っていく。  多くの人々が歩行し終わり、横断する者たちが徐々に(まば)らになってきたところに未だ停車しているはずの車1台が動き始める。初めは気にする者はいなかったものの、その白いセダン車が少しずつスピードを上げていくにつれて(ざわ)めきと悲鳴が増え始める。 「危ない!」 「()けて!」  白いセダン車の先にはアースカラーのロングワンピースに白いサマーニットを合わせた、マッシュショートボブの肌白い若い女性が直立する。女性は周りの叫び声には見向きもせずに迫り来る車を見つめている。 「こんなの無……」  女性が呟き終わらないうちに猛スピードで走り抜けてきた白いセダン車に撥ねられ、その華奢な肉体は軽々と空を飛ぶ。後頭部が地面に激突したその直後、目の前が真っ暗となって彼女は闇に飲まれる。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加