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(どいつもこいつも……花の色が見えないの!? 白花つけてるのに、なんだってこんな目に……!)
おかしな男にからまれて、無駄に時間を過ごしてしまった。
聞こえてきた胡弓の音が――消える。
すぐに、笛の音も。
かすかに聞こえた、鼓の音も。
(あぁ、曲が終わった!)
希星は走って書記長邸の玄関に近づき、希星は裴語で門番に声をかけた。
『周大人の弟子、五等茶師の関希星です。師父が忘れ物をなさったので、届けに来ました』
『茶師か。入れ』
希星が身分証を見せると、ゴンゴン、と門番が扉輪を鳴らす。
少しして『どうぞ」』と返事があった。扉が開く。
(どうか、間に合って!)
玄関にいた裴人に、希星は先ほどと同じ言葉を繰り返した。
『もう喫茶の時間がはじまっていますが……』
『ありがとうございます。助かりました』
たしかに、玄関には、もう茶の香りが漂っている。
廊下を進み、扉が開いた時――
「言語道断だ!」
と丈山の声が響いた。
希星は、仰天してしまった。丈山の怒鳴る声など、弟子入りして以来一度も聞いたことがない。
案内していた裴人が、驚いて部屋に駆け込む。
(なに? なにが起きたの?)
後ろに、希星も続く。
――月英がいる。
赤い長椅子がコの字に置いてあり、奥に楽妓が三人座っている。
胡弓と、笛。もう一人は鼓。
三人は、茶杯を持ったまま狼狽えていた。
床には仙桃菓が散らばっている。
――バラ、スミレ、アオイ。
あの、商館長邸で供されたのと、同じものだ。
転がっているのは五つ。
ノーゼ書記長は、手前の椅子の背もたれに背を預けている。
月英は、書記長を抱えるようにして隣に座っていた。
(どういうこと? 状況が全然わからない!)
丈山は、長椅子の前に立ち、ノーゼ書記長を見下ろしていた。
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