【四】築島の長い夜

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(どいつもこいつも……花の色が見えないの!? 白花つけてるのに、なんだってこんな目に……!)  おかしな男にからまれて、無駄に時間を過ごしてしまった。  聞こえてきた胡弓の音が――消える。  すぐに、笛の音も。  かすかに聞こえた、鼓の音も。 (あぁ、曲が終わった!)  希星は走って書記長邸の玄関に近づき、希星は裴語で門番に声をかけた。 『周大人の弟子、五等茶師の関希星です。師父が忘れ物をなさったので、届けに来ました』 『茶師か。入れ』  希星が身分証を見せると、ゴンゴン、と門番が扉輪を鳴らす。  少しして『どうぞ」』と返事があった。扉が開く。 (どうか、間に合って!)  玄関にいた裴人に、希星は先ほどと同じ言葉を繰り返した。 『もう喫茶の時間がはじまっていますが……』 『ありがとうございます。助かりました』  たしかに、玄関には、もう茶の香りが漂っている。  廊下を進み、扉が開いた時―― 「言語道断だ!」  と丈山の声が響いた。  希星は、仰天してしまった。丈山の怒鳴る声など、弟子入りして以来一度も聞いたことがない。  案内していた裴人が、驚いて部屋に駆け込む。 (なに? なにが起きたの?)  後ろに、希星も続く。  ――月英がいる。  赤い長椅子がコの字に置いてあり、奥に楽妓が三人座っている。  胡弓と、笛。もう一人は鼓。  三人は、茶杯を持ったまま狼狽えていた。  床には仙桃菓が散らばっている。  ――バラ、スミレ、アオイ。  あの、商館長邸で供されたのと、同じものだ。  転がっているのは五つ。  ノーゼ書記長は、手前の椅子の背もたれに背を預けている。  月英は、書記長を抱えるようにして隣に座っていた。 (どういうこと? 状況が全然わからない!)  丈山は、長椅子の前に立ち、ノーゼ書記長を見下ろしていた。
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