迫る毒牙

7/9
前へ
/135ページ
次へ
「もういいぞ、出てこい」  声をかけられ、希星はパッと身体を起こした。  荷台から、御者台へと移動する。  いろいろと聞きたいことも、言いたいこともあるが、まず最初に、 「ありがとう!」  と伝えた。 「おぅ」  と蜃海が答える。 「玉昌さん――助手についてくれた茶師が、仙桃菓を食べちゃってたの!」 「あぁ。予定変更だ。……北の倉庫に向かう」 「倉庫?」 「まぁ、なんというか……隠れ家だ。築島で働く連中が薬を抜くのに使う場所で、使用人だの水夫だのが集まるところだ。幹部が追いかけてくることはないから、安心しろ」  蜃海が、少し横にずれて場所を作ってくれたので、希星はそこに座った。 「媚薬って、飲んだらどうなるの?」 「どうって――」  蜃海は、未知の生き物を見るような目で希星を見た。  その目にあるのは、強い戸惑いだ。  すぐに視線は前方に戻ったが、ひどく動揺している。 「え? いや、そうじゃなくて! 媚薬くらい知ってる。遊郭育ちだもの。聞きたかったのは、媚薬と麻薬は違うよね? ってこと。麻薬じゃなくても、使ったら罪になるの?」 「あぁ、そういう意味か」  蜃海は、ホッと胸を撫で下ろしていた。  媚薬について、説明させられると思ったらしい。  さすがに、清街とはいえ遊郭で育った希星が、知らぬはずもない。 「媚薬でも?」 「あぁ。――なる。華人が使えば、打ち首だ」 「ど、どうして? いくらなんでも、それはあんまりだわ!」 「舌の色が変わるのは、おんなじだからな。言い訳はきかない」  ごくり、と希星は生唾を飲んだ。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加