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「もういいぞ、出てこい」
声をかけられ、希星はパッと身体を起こした。
荷台から、御者台へと移動する。
いろいろと聞きたいことも、言いたいこともあるが、まず最初に、
「ありがとう!」
と伝えた。
「おぅ」
と蜃海が答える。
「玉昌さん――助手についてくれた茶師が、仙桃菓を食べちゃってたの!」
「あぁ。予定変更だ。……北の倉庫に向かう」
「倉庫?」
「まぁ、なんというか……隠れ家だ。築島で働く連中が薬を抜くのに使う場所で、使用人だの水夫だのが集まるところだ。幹部が追いかけてくることはないから、安心しろ」
蜃海が、少し横にずれて場所を作ってくれたので、希星はそこに座った。
「媚薬って、飲んだらどうなるの?」
「どうって――」
蜃海は、未知の生き物を見るような目で希星を見た。
その目にあるのは、強い戸惑いだ。
すぐに視線は前方に戻ったが、ひどく動揺している。
「え? いや、そうじゃなくて! 媚薬くらい知ってる。遊郭育ちだもの。聞きたかったのは、媚薬と麻薬は違うよね? ってこと。麻薬じゃなくても、使ったら罪になるの?」
「あぁ、そういう意味か」
蜃海は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
媚薬について、説明させられると思ったらしい。
さすがに、清街とはいえ遊郭で育った希星が、知らぬはずもない。
「媚薬でも?」
「あぁ。――なる。華人が使えば、打ち首だ」
「ど、どうして? いくらなんでも、それはあんまりだわ!」
「舌の色が変わるのは、おんなじだからな。言い訳はきかない」
ごくり、と希星は生唾を飲んだ。
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