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今度は、黒い覆面の男が鞄から水槽を取り出した。青年は釘付になった。
「これは……三葉虫じゃないか!」
平たい体に、たくさんの細い脚。底砂を這う姿は化石と瓜二つだ。
「俺は、大昔の生き物について学んでいるんだ。卒業論文のネタにしたい」
袖をまくって水槽に手を突っ込もうとする青年を、白い覆面の男が止めた。
「将来、この三葉虫は別の学者が研究することになっているのです。古生物学の歴史が変ってしまいますから、触ったり、写真を撮ったりすることはお控え下さい」
青年は渋々手を引っ込めた。黒い覆面の男が訊ねる。
「我々のこと、信じていただけましたか」
青年は小さな水槽をまじまじと覗いた。三葉虫らしきそれは、作り物にしてはよく出来ている。彼は深く頷いた。
「ああ、信じるよ。だが、ただでは見せてやらない。一円も差し出せないと言うのなら、今すぐこの部屋から出ていけ」
強気な青年に、白い覆面の男は黄金色の砂を取り出した。青年は目がくらんだ。
「調査を終えて未来へ帰る際には、この砂金を袋いっぱいに詰めて差し上げましょう」
青年は、喉から手が出るほど金を欲しがっていた。何より、金を他人にどっさりと渡せるほど裕福な人が、盗みをはたらくわけがないと思った。
「わかった。過去を探求する同志として、協力しようじゃないか」
彼らは固い握手を交わした。
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