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 意識が朦朧としている。  ろくに食事も喉を通らず、自室へと引き上げた拓朗はベッドの上で膝を抱えている。  一人でいるのには広すぎるこの部屋は、孤独を際立たせ、一人だと思うと、飢えや渇きが益々募り、苦しくなった。  明かりも灯さず暗い部屋の中には、窓から微かな月明かりが差すだけで、あとは深い闇が拓朗を取り囲んでいる。  しばらくじっとその闇の中で静止していると、ノックもなしに部屋の扉が開かれるのがわかった。廊下の明かりで人影が浮かび上がる。 「意地を張るのも、ええ加減にしといたらどうや」  そちらに目を向けなくても、声音でそれが兄の拓也だとわかった。 「今までは何とか誤魔化しながらやってきたんやろうけど、そろそろ限界やろ。その調子やと、もう一週間も保たんと死ぬぞ」  拓也は呆れ果てたように言い捨てる。どんどん痩せ細り、肌は張りを失い、顔色は悪いどころの話ではない。そんな拓朗と比べ、拓也はその声の先までもが艶やかで、生気に満ち溢れている。 「江国家に生まれた者、それが男子であった場合には必ず訪れ、そして逃れられへん呪いや。とっとと諦めて、その宿命をお前も背負え」  拓朗は微動だにしない。拓也の声が届いているのかさえもわからなかった。そんな弟の姿に、拓也は一つわざとらしくため息を吐いてみせる。 「……見つけたんやろ?」  そして、その後に静かに言い放った一言により、初めて拓朗は小さく肩を揺らし、虚ろな瞳を泳がせた。 「見てたらわかるわ。物欲しそうな気持ちが身体に表れとる。俺もお前と同じ、江国家の男子やからな」  それでも何か言葉を返したりすることはなく、拓朗は膝を強く抱え直し、その間に顔を埋めた。 「……まぁ、ええわ。お前の好きなようにせえ」  愛想を尽かしたのか、突き放すように捨て台詞を吐いてから拓也は部屋の扉を閉めた。  また部屋の中には、さっきまでの静寂と闇が戻ってくる。その漆黒に拓朗は飲み込まれ、ずぶずぶと深淵へと沈みこみ、いっそ消えてしまいたいと思った。
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