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エピローグ
広大な砂漠。それは見渡す限りに広がり、どこまでも乾いている。
そこにはオアシスなど存在しない。ただ何もかもを飲み込む砂が、ほんの小さな雫程度の水分さえも奪ってしまうのだ。
自身の中に渦巻く飢えは、江国拓朗の瞼の裏にそんな光景を思い浮かべさせる。
わかってはいたことだった・・・いや、わかったつもりになっていただけだったのか。
「江国家の呪い」。それを幼い頃、父に伝え聞かされた時から、いつかこんな日がくるのだという想像はできた。
しかし、凄まじい飢えと渇きに苛まれて、ようやく拓朗は「江国家の呪い」のことを本当に理解したと言えるのだろう。
身体の中に大きな穴を感じる。その穴は深く、光が届かず暗い。では、穴の中には何があるのかというと、何があるでもなく空虚だ。どこまでも続く穴の奥からは、ただ呪いによる飢えと渇きが触手のように伸びて、その欲求を満たそうと拓朗の身体を突き破らんばかりに暴れ回っている。
拓朗はじっとそれに耐える。なんとか自分の中に押しとどめておくのが精一杯で、それ以上はどうすることもできない。
―――いや、それも違う。
拓朗は知っている。この飢えと渇きを満たす方法を。欲求を解消するための術を。
それでも拓朗はそれをしない。したくない。
自分さえ我慢すれば誰にも迷惑はかけない。誰を傷付けることもないはずだ。拓朗は膝を抱えて、じっとうずくまる。そうして夜を過ごす。
だけど、夜は果てしなく長い―――。
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