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本編
「数々の悪質な行為で私の愛しい人を苦しめたロザンナ、お前とは今この時を以て、婚約を解消する!」
声高らかに衆目の面前で十年ほど寄り添って来た婚約者を糾弾した王太子殿下に、キュカの視線の先に居る令嬢は冷静さを保っているものの、その顔は青白く、気を抜けば今にも倒れてしまいそう。
彼女は公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者で、令嬢達にとっては手本にもなりそうな、非の打ちどころない貴族の娘。
艶やかな赤い巻き毛も、長い睫毛に縁取られた翠の瞳も、白くなめらかな肌も、凛とした佇まいも、言葉遣いから所作の一つひとつまで完璧、何もかもが綺麗で高貴な高嶺の花。ロザンナ嬢ほど立派な淑女はこの国に居ないだろうと、社交界でも評判の美しい人は、毅然と顔を上げて婚約者――だった王太子を見据えている。
キュカは騒ぎの中心人物達をもう一度見た。
いわれなき濡れ衣で糾弾されたロザンナ、真実の愛に目覚めたと宣う王太子のアレクサンダー、彼の腕の中でか弱く震える男爵令嬢リリアン、王太子のように彼女に魅了されたと噂される、宰相の息子、外交長官の息子、魔術師長の息子、騎士団長の息子。
(マティアス…)
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