青菫

98/99
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
 クローネを構成する魅力をつぶさに観察した事で、彼女に似合うドレスのデザインが湧き出てくる。今、自分の脳内に溢れる全てのデザインをクロッキー帳に描き出すまで、今夜は眠れそうにない。  後日、妙に厚みのある綺麗な封筒がメゾンに届いた。クローネからである。  花束が描かれた封筒と揃いのデザインの便箋には案内を感謝する旨の他、キュカのウェディングドレス作成に当たって、自分も恩人であるキュカへの感謝を込めて刺繍の一つを手掛けさせていただけないか、という内容で驚いたのだが、もっと驚いたのが同封されていたハンカチに施された刺繍の緻密さ。ワンピースの裾も凄かったが、ハンカチは今の技量の全てを詰め込んだのだろう、もっと凄かった。  漁村で暮らした四年の間に動物と身近に接する機会が増えたらしい令嬢は、海産物と猫が特に上手い。リアル過ぎると可愛げがなくなるので、あくまでも刺繍の技術を支える程度にデフォルメされたデザインで刺された猫が魚を狙う画は、動物系の刺繍にはそこそこ自信のあるエリザベスを感嘆させたと同時に、ライバル心も芽生えさせる結果となった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!