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「ルー、聞いて! 私、とうとう嫁ぎ先が決まったわ」 「マジか」 「マジよ」  しずしずと皇帝の前から退室し、廊下に出て扉の横で待機していた護衛騎士に早速報告すると、何とも短い驚き。  黒と見まごうセピアを基調とした軍服を適度に崩し、漆黒の髪を真ん中分けにした無愛想な男は、一言で言えば「不良騎士」である。名をルーベンス。  たおやかな美少年を想像してしまいそうな名に反して、外見も中身も鍛えた刃のような野性味を持ちながら、全体的に退廃的な色気の滲む危険な香りを纏わせた青年だ。 「姫ィさん、とうとう嫁に行くのか…」 「長かったわー。そろそろ二十歳になるのに一度もこれと言った縁談は持ち上がらないし、このまま私は一生穀潰しでいるのかと思うと国民に申し訳なくて……」  十九歳のミゼルカはこれと言って汚点もないが、これと言って美点もない。可もなく不可もない地味姫。  それだけなら政略的な意図で結ばれる婚姻話も一つか二つは浮上しそうなものだが、ミゼルカの母は皇帝の数多抱える愛妾の中で唯一、しがない娼婦だったのである。
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