「私は、武器」5

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「私は、武器」5

 少年が私に、と成長するたびに与えてくれる着るものは、どれもお古や拾って来たボロ布などではなくて、美しい刺繍がふんだんに施されているものばかりだった。  民族衣装だと思われる裾の長い半袖の服の胸元には、いつか見た金の模様が描かれていた。  彼は多分、この地に元々住んでいる者なのだろう。  そして、私の生まれる前から、この国の全てを奪おうと戦を仕掛けて来た者たちを排除しようと奮闘する、そんな人々が掲げている旗の元に生きているのだ。  私の名など、私ですらも知らないと言うのに、彼は「姫様」と呼んでいた。  ふかふかの絨毯、豪奢な布団、水瓶には、飲み水が絶えることはなかった。  自分は硬い木の実や古いパンを粉にして、水と混ぜて飲んで摂取していたと言うのに、私にはいつだって食器に綺麗に盛り付けられた食事をどこからか運んで来てくれた。  「…、けほ、っ」  さよなら、を想うと、あまりの胸の苦しみに、涙がボロボロとこぼれ、頬を伝って顎から滴り落ちる。
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