1.僕らの出会い

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会社の愚痴を静かに聞いてくれていたかと思えば、最後に学は辛辣なアドバイスをくれる。時には『それはお前がおかしいぞ』と一刀両断。はあ? と思うことも多いけど、彼の指摘は的を得ていた。 冷たくあしらう割には熱意を持って話を聞いてくれている彼。僕はだんだんと学が苦手ではなくなっていった。 うんうん、と何もかもを肯定してくれるのではなく、真剣に僕に向き合ってくれている学の姿勢が嬉しく思えた。 そして出会って半年ぐらい過ぎた頃には、ほぼ毎週、バーで会い一緒に飲んでいた。 『マナちゃん、この子ね、あんたが来ないと寂しそうなのよ』 ある日、ママがそう学に言うものだから僕は慌てて手を振った。 『ち、違うよっ』 『へぇー、随分可愛いこといってくれるじゃん』 ウイスキーの入ったグラスを傾けながら、学が笑う。僕は多分真っ赤になっていたのだろう。するとママは矛先を学に変えた。 『何言ってんの、マナちゃんだって、この子がいないと三十分もしないうちに帰っちゃうじゃないの』 『……へぇ、そうなんだ』 『たまたまだよ、ったく余計なことを』 ママはこうやって僕らをよく揶揄っていた。お互いに意識はしているものの、認めたくなくて。変な間柄にピリオドを打ったのはそれからしばらくして、夏の大雨の夜だった。 その日は朝、寝坊をしてしまい慌てていた。会社に行く支度をしながら、テレビはつけているだけで、いつもゆっくり見る天気予報を見れなかった。 家を出る時には晴れていたし、午後も雲が出始めたわりにはまだ雨の気配はしなかったから、僕は仕事を終えると傘も持たずに週末のバーへ。 『よぉ』 珍しく学が先に来ていて、店内を見渡すと金曜日だというのに、その日は人が少なかった。 『お疲れ、今日やけに人少ないね』 『給料前だからだろ』 学はそう答えて、オーダーしていたウイスキーを口にした。それから数時間、いつものように飲んで上機嫌に喋っていると、ママが突然あら大変と呟いた。 『電車、全線ストップしちゃってるわ』 『え? なんで』 『この雨じゃ、仕方ないわねぇ』
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