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 ロージィがホルヘのアパートに来てから、三日後のことだった。  行為そのものの良し悪しについては、ロージィにはその機能特性上、判定するのは難しい。ロージィに搭載されているのは、セックス技能の判定アルゴリズムではなくて、心拍数や体温変化、心電図等の情報から、対象者が快楽を得られているか、リラックスできているか、それだけだ。セックスを盛り上げるための反応や行為もアンドロイドには可能であり、また性的サービス時の行動アルゴリズムとして参照可能だ。ロージィは実際にそれを行い、対象者の反応を検知し、学習して次の行為にフィードバックする。だがそれは、ロージィが実際に行為によって快楽を得ているということを意味せず、ただ、対象者の心身のケアという明確な目的に沿った運用をAIのオペレーションとして行っているという意味でしかなかった。  だから、ロージィにとって気になったのは、ホルヘとの行為自体よりも、彼がしている生活だった。行為の後ホルヘは眠りにつき、四時間後に起こしてくれと言う。その間にロージィは住居内に持ち込まれた専用の洗浄槽で機体洗浄をする。外皮は簡易的な洗浄だけで済むが、局部のシリコン皮膚は換装して洗浄し再装着する必要があると言うと言うと、昔のナイーブな人間だったらどう思うか分からない。それから、ホルヘの生活記録の分析と、必要なサポートの算出を行う。まさにそれが問題で、ホルヘはこの時代の基準で言うと生活破綻者だった。  煙草一つとってもそうだ。発ガン性物質である煙草の常用は、当局からの生殖活動許可の評価においてかなりのマイナスを喰らうことになる。そのためニコチンを含まず、類似した鎮静作用物質に置き換えた代用電子煙草が普及しており、煙草は高価な品だった。それも好き好んで吸うのは反出生主義者か自殺志願者ぐらいのものだが、ホルヘはヘビースモーカーのようだった。  それにホルヘの家は正直言って汚いと、ロージィは思う。それほどものが多くないので目立たないが、部屋の隅には埃が堆積している。自動掃除機ロボットを入れていない家はこの時代では化石レベルだ。それから、洗濯物も、ボタンを押すだけのことなのに、ギリギリまで溜め込む傾向にあるみたいだった。  破滅的ともいえる人生を送っていながら、娯楽のための品はホルヘの家には見当たらない。バーチャルセックスのための端末も。彼の仕事であるスペースコロニー建設に関する情報が記された電子ペーパーが机の上に積み上がっていた。こういった電子ペーパーは不要になった情報を消去すればまた新しい情報を表示することができるので、普通は場所を取らないのだが、この情報消去の手間をホルヘは惜しんでいるようだ。あるいは、どれが必要でどれが不要な情報なのかは、精神がぐちゃぐちゃになったホルヘには判別できないのかもしれない。
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