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これらの情報を総合すると、ホルヘの鬱状態は今回の事故に端を発するものではなく、かなり前から継続していたもののようだった。この時代では市民の精神状態の自己管理は半ば義務化されていて、一定の精神レベルの維持とその定期的な報告も、生殖行動許可の算定基準には入っている。
遺伝的多様性の維持と自然淘汰。人間という種の保存を考える上では、相反していながらも両立させなければならない命題だった。少数の優れた遺伝子だけを後世に残そうとすると、多様性が失われて環境変化に脆弱となり、また遺伝病のリスクが増大する。と言って、種の保存を担う遺伝子プールの一員として生産される人間たちに不良品に入ってくるのは、これまた生物学的に不可避な事象でもある。生産された個々の人間たちの基本的な権利には最大限配慮しなければならない。ただし、重篤な病や精神疾患の遺伝的因子は注意深く取り除かなければならない。それがこの社会の根本的な管理思想だった。
しかし、一介のパートナーAIでしかないロージィにはそんなことは関心の外にあった。パートナーAIの運用目的は、サービス対象者の状態を記録し、状態の改善のための措置を最大限講じることである。
(面倒くさがりだからこそ、自動掃除機ぐらい入れればいいのに)
そんな風にロージィは考える。アンドロイドは独り言を呟くことはない。思考することと、それを音声情報で出力することはアンドロイドにとっては別のもので、一段階余計な処理を伴うためだ。
そのうちに、ロージィは机の上で、あるものを見つける。電子ペーパーに埋もれた中からロージィが見つけたのは、一枚の写真立てだ。
この時代にも写真がある。電子ペーパーの記録は、ボタン一つで消えてしまう。元は電子データでも印刷して残しておけば、少なくとも誤消去の心配はない。紫外線保護が施された写真立てに密封しておけば、相当な長期間、映った図を保存しておくことができる。そんなわけで写真立ては中流以上の家庭では時々見かけるものだったが、ホルヘのような生活破綻者の家ではあまり予想できない代物だった。
ロージィは手にとって写真を見る。そこに写っていたのは二人の子供だ。
赤い服の少年と、白い服の少年。
二人とも浅黒い肌に金髪で、二人は見分けがつかないほどよく似ていた。
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