(一・一)啓示

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(一・一)啓示

(一部)エデン (一・一)啓示  西暦二〇八〇年夏、夕刻。突然の夕立と雷が襲った。場所は、狼山という秘境の山の頂きである。  ドッカーン……。いずこにて落雷あり。その際、狼山で暮らすサンシャインという名の一匹の狼に、我が地球、この母なる大地より『啓示』がなされた。  ”……ばしょはエデン。そこにいま、わがむすめのふたご、うまれたり。そのなかのひとりを、このやまにてそだてよ。りんとした、いっけんだんしのごときなれば、たやすく、くべつできよう。そのむすめをじゅうごまではエデンとよび、そののちマザーとなずけよ……”  ***  先ず狼山について説明しよう。  兵庫県神戸市。神戸港の賑わいを見下ろすかのように、峰々が聳え立つ六甲山脈。その中に幾多の屹立した崖が頂上への到達を阻む、それは険しい摩耶山という山があった。  この山について地元では、昔まだ日本に狼が棲息していた時代、狼のメッカであったという言い伝えが残されており、地元の人々は狼山と呼んでいた。現在は、野生化した獰猛な犬即ち山犬たちの棲み処と化していると専らの噂で、山の険しい地形と相俟って、近年人が足を踏み入れたことのない秘境となっている。言わば太古から狼によって守られた聖地、霊山であった。  次に、サンシャインについて説明しよう。  サンシャインはオスの狼であり、仲間と共にここ狼山にて暮らしていた。しかし狼?二十一世紀の日本に、狼が存在するなど不思議な話である。なぜならば記録的には、明治時代にニホンオオカミが捕獲されたのを最後に、以後絶滅したのではないかとする説が有力だからである。  しかしながらサンシャインも仲間たちも、紛れもなくこの日本に実在していた。実は彼ら狼たちは人が近付かない秘境の地、狼山にて、今もなお化石の如く細々と生き続けていたのである。彼らは群れをなして棲息し、自分たちをオオカミ族と呼んでいた。サンシャインはそのリーダーである。  オオカミ族。彼らは狼山の頂上に広がる原野に、ひっそりと身を隠しながら暮らしていた。なぜなら彼らは、人類こそが彼らの敵であり、最大の脅威であると知っていたからである。よって人間たちに発見されないよう、日々細心の注意を払っていた。昼間はほら穴の中で大人しく息を殺し殆ど仮死状態で眠り、主に夜間活動していたのである。
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