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「……」
さっきまでの浮遊感がなくなった。目を開けてみる。
「……ここは?」
一体、何が起きたんだ? 辺りはさっきまでと同じ廊下、のはず。
「……誰?」
俺はバッと後ろを振り返る。俺は持っていた時計を慌てて右ポケットに入れた。
「……坂下くん?」
「……保積、先輩?」
保積先輩だった。それもあの頃と全く変わらない。いや、変わらない、というよりも。
「やっぱり坂下くんなんだ! へえー」
「ちょ、ちょっと先輩……」
先輩が顔を近づける。これは高校の頃の先輩だ。高校時代は毎日のようにこの距離感だったのに、何故かどきまぎしてしまうのは十年も会ってなかったからなのか、若い先輩に会ったからなのか。
「ふふっ、坂下くん。変な顔」
「え?」
そう言ってクスクス笑う先輩。懐かしい。先輩はよくこんな感じで笑ってた。
「先輩……」
「どうしたの? 何十年ぶりに会うみたいな顔しちゃって」
「いえ、十年です……」
思わず答えてしまった。
「へえー、十年も会ってないんだ」
先輩は俺がタイムスリップしてきた事実にあまり驚いていないようだ。むしろごく自然に受け入れているように思える。
「ふーん、それにしても坂下くん、老けたねえ……」
「俺、まだ二十七ですよ……」
「ふふ、冗談。でもそっか。十年後の坂下くんはこんな感じなんだ」
「十年、ってことは先輩は三年生ですか?」
「うん、っていってももうすぐ卒業するんだけどね」
ということは、先輩がこの街を去る少し前だ。
「ねえねえ、せっかくだしさ。少し校内を一緒に回らない?」
「え、でも、誰かに見つかったりしたら」
「大丈夫。どうせ誰も来ないって。ほら、早く」
俺の先輩に手を引かれていった。
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