1.辛辣な「伝説の練習生」

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 ソン・イェジュン。ライバル事務所から引き抜かれた完全無欠な大型新人。そんな彼にぶつけられた辛辣な正論。 ――あんなやつに見下されたままでたまるか。いつかやつよりもビッグになって見返してやるんだ。  遥斗の心は未だかつてないほど熱く燃えていた。遥斗は練習スタジオに籠り、ダンス練習を始めた。  集中していると、時間は飛ぶように過ぎていく。どれだけ踊り続けたのか、気付けば時計の針は夜中の一時を回っていた。  汗は滝のように流れ、息も上がり、足も痛い。明日も朝からレッスンがある。もう今夜はこれで切り上げよう。練習室の後ろに置いてある荷物をまとめようと遥斗が振り返った時のことだ。  いつの間に入ってきたのか、練習室の入り口に佇む人影を目にした遥斗は、「あっ!」と声を上げた。イェジュンだ。  八頭身の圧倒的スタイルと一点の陰りもない完璧な甘いマスク。澄んだ美しい、だが冷たく無機質な瞳がじっと遥斗を見据えていた。  先程までメラメラと燃やしていた対抗心はどこへやら。いざイェジュンを目の前にすると、遥斗は身体が硬直して何もできなくなってしまった。  周囲の景色も音もなくなり、視界にはただイェジュンの美貌が映り、聴覚には心臓が鼓動する音だけがやたらと大きく響いている。 「ソン・イェジュン……」 「いきなり呼び捨てで人の名前を呼ぶとは、随分礼儀正しいやつだな」  思わず彼の名を口にした遥斗に、イェジュンは嫌味を返した。  それもそのはず。どう見ても、イェジュンは遥斗よりも年上だ。目上の者には敬語を使うことが当たり前の韓国において、いきなり親しくもない年上の者を呼び捨てにするなど、マナー違反も甚だしい。 「す、すみません!」  遥斗は慌てて謝ったが、イェジュンは相変わらず無機質な眼差しを彼に注ぎながら問いを発した。 「お前、名前は? 今何歳だ?」  また何か嫌味を言われるのではないかと身構えていた遥斗は拍子抜けした。 ――まさか僕に興味を持ってる?  遥斗はじっとイェジュンを見つめた。
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