7.夢を叶えてくれてありがとう

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 だが、コンテンツ撮影が始まると、忙しいながらも楽しかった。  衣装を着用し、メイクもバッチリ決めると、鏡に映る自分が既にアイドルデビューしたようで気分が昂る。カメラに囲まれながら歌ったり踊ったりしていると、楽しくて時間があっという間に過ぎていった。  更に、遥斗の心を奪うのは、ただでさえ普段からスターのオーラ全開であるイェジュンが披露するより磨きがかかった姿だ。それはまるで絵本から飛び出して来た王子様そのもののビジュアルで、撮影スタッフからも感嘆の声が漏れる程だった。  ミュージックビデオの撮影では、完璧にセンターとしての役割を遂行し、その魅惑的な表情とキレのあるダンスで、まさにPegasusの主人公そのものだった。  そんな輝く未来のスターが自分の恋人であると思うと、自然と顔が綻んでしまい、顔を引き締めるのが大変だった。  しかし、いくら楽しいとはいえ、毎日のように続く撮影は体力も気力も消耗する。加えてレッスンや練習が深夜まで連日行われ、宿舎に戻ると体力は全て使い果たされていた。遥斗たちはベッドに倒れ込んで死んだように眠るのだった。 「ヒョンア、僕たちって恋人になったんだよね……?」  ずっとそばにいるにも関わらず、恋人らしいことがほとんどできていないことに遥斗はふと気が付いた。そもそも、恋人同士であることすら忘れて一日が過ぎていることも少なからずある。 「そうだよ。ちゃんと恋人になっただろ。もう忘れたのか?」 「そんな訳ないよ。だけど、二人きりで過ごせる時間なんて、夜寝ている間だけだよ?」  つい口をついて出た遥斗の愚痴に、イェジュンは溜め息をついた。 「仕方ないだろ。デビューまで後少しなんだ。デビュー前後のスケジュールが一段落したら、少しゆっくりする時間もあるよ。それまで頑張ろう」 「それはわかってるけどさ……」 「ほら、これで我慢しろ」  イェジュンは遥斗の唇にチュッと短いキスをした。遥斗の顔が一気に紅潮する。  そんな二人の様子を見ていたチャンヒョクとヨハンからすかさず厳しいツッコミが入った。 「君たち、本当にバカップルだよな。見ていて羨ましいよ」 「ほんと、ほんと! そもそも二人共しょっちゅう恋人っぽいことしてるじゃないですか。ミュージックビデオの撮影でも、休憩時間に遥斗ヒョンがイェジュンヒョンの肩に頭を乗せて仲良さそうに仮眠取ってるの、ちゃんと記録してますから」  ヨハンが突き付けたスマホの画像を見ると、遥斗とイェジュンが幸せそうに肩を寄せ合って眠っている姿がしっかりと収められていた。二人は恥ずかしさのあまり、そそくさとその場を逃げ出した。
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