1.辛辣な「伝説の練習生」

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「そうか。まあ、デビュー予定のグループから(ほう)(しゅつ)されたからといって、自分を惨めに思う必要などない。この業界ではよくあることだ。実力だけの問題じゃない。グループのコンセプトや他のメンバーとのバランスの面で合わないと判断されれば、デビューメンバーに一旦はなれたとしても外されることは普通だ。(もっと)もお前のそのダンスの実力からして、理由はダンスにあるんだろうが」  先ほどよりも随分イェジュンの遥斗に対する当たりも和らいでいる。何ならデビューが白紙になって傷心している遥斗を慰めてくれているようにすら感じる。  だが、余計な一言がいちいち多い。しかもその一言が全て核心をついているから質が悪い。遥斗はすっかりいじけてしまった。 「ああ、そうですよ。僕はダンスが苦手ですよ。そのせいでデビューメンバーから外されました。アメリカの何とかっていう有名プロデューサーのグループでのデビューが決まってる将来有望なあなたとは格も何もかも違いますから。もう放っておいてください」  すると、イェジュンは目を丸くした。 「デビューが決まっているだって? 確かに俺はブライアン・プライス先生のプロジェクトに参加したくて事務所の移籍を選んだ。だが、だからといって俺がそのプロジェクトで成功できる確証なんてどこにもない。俺だって、もしブライアン先生に認められなければこのプロジェクトからすぐに外されるさ。デビュー直前にメンバーから外されることだってある。その計画自体が白紙になることもな。だから、デビューするまで気は抜けないんだよ」 「え、そうなんですか?」  今度は遥斗が驚いてイェジュンに聞き返した。 「当たり前だ。コンセプトに合わないとなれば、それは致し方ない。だが、実力の面で外されるのは絶対に嫌だ。だから、練習には手を抜けないんだ。J-M-Eエンターテイメントと契約を交わすために事務手続きで忙しかったからといって、今日のトレーニングを休む訳にはいかないだろ」 「てことはイェジュンさんも今まで練習を……?」 「練習以外に何をするためにここに残っていたと?」  新しい事務所に入ったその日から深夜まで自主練に励むなんて、遥斗には考えられなかった。だが、そんなことをさも当然といった風に言ってのけるイェジュンに、遥斗は言葉を失うしかなかった。
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